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  この文章は1988年1月から12月まで、書体制作を続けながら
この業界の周辺で感じたことを思い付くままにMONZ(印刷之世界社)に連載したものです


がんばれタイポス 1988年1月

昭和44年華やかにデビューした、かな書体タイポス(写研から発売)。
若い人達の中には知らない人がいるかもしれない。書体がどんどん増え続ける現在では書体見本帳の中でも目立たない存在になっているタイポス。しかし、私が書体制作の道に進むきっかけとなった書体。
明朝とゴシックしかなかった日本の活字書体が多様化するきっかけとなった書体。そして国内のデザイン誌だけでなく、毛筆をたち切った書体ということで海外の雑誌にまで紹介された。

数年後、タイポスはゴシック系のファミリーも追加した。このゴシック系タイポスの好きな私は、機械関係のカタログに今もあきずに使用している。しかし、誰もが待っていたタイポスの漢字は、なぜか製品化されなかった。

来春には発表できるでしょう(言語生活・昭和51年8月号)。書体自体は完成している(数年前からの巷のうわさ)。などの話を耳にするたびに、ワクワク楽しみにしているのだが、なぜか、いまだに発売されない。
最近、タイポス(明朝系)と本蘭明朝の漢字で組んだ文章を見た。これがとても新鮮だった。タイポスが発売された当時は石井明朝体の漢字と組むしかなく、石井明朝のやさしく優雅なやわらかさと、タイポスのカチッとした線質が少し不協和音を発生していたのだが、その組版では、活字を意識した硬さと現代的な仕上げを施された本蘭明朝の漢字が、タイポスとうまく同調していた。
たぶん、タイポスの大好きなデザイナーが試みたこの組版は、とても美しかったし、タイポスはまだまだ古くない。と私に再認識させてくれました。

しかし私は、漢字・かな共にタイポスで組まれた文章が見たい、読みたい。たぶんウワサどおり書体は出来あがっているのだと思う。
かなが発売されてから20年ちかく過ぎたが、何等かの形で漢字の製品化を望むタイポスファンは私だけではない筈だ。
がんばれ、タイポス。



スムージング…ワープロ文字を滑らかに 1988年2月

ワープロの文字はガタガタの階段状になってキタナイよ!なんて言われながら、事務処理などの原稿作成には、なかなか重宝なのでワープロは、あっという間に普及したようだ。
そしてどんどん低価格化が進み、メーカー間の激しい競争でさまざまな付加機能が追加され続け、ビジネス機とパーソナル機をはっきり分けることも難しくなってきている。

初期の頃は、日本語電子タイプライターとか文章清書機というイメージだったが、現在のワープロは、カラー印刷・文字装飾・拡大縮小・画像の取り込み・表計算・データ管理・ハガキ印刷など、まるで武蔵坊弁慶のように多くの機能を抱えこんだ、文字パフォーマンス機に変貌をとげた。

その付加機能の中に「スムージング(SMOOTHING)」がある。
これは、拡大印字機能の搭載とともに、ビットイメージをそのまま拡大したのでは、まさに階段状の文字構成(図1)がロコツにあらわれるので、その直角の階段部分をなくすための機能なのだ。
DOT.gif そして、この機能のおかげで、たしかに直角のガタガタは無くなる。しかしガタガタは結局無くならない。(図2)

基本に使われている文字はほとんどの機種が24ドットなのだが、わずか24×24のグリッドの制約の中で書体デザイナーが必死に配置(中にはかなりテキトーに配置した書体もあるが)した一点一画が、一定の法則に従って自動的に修正するこの機能によって、ものの見事に水の泡になってしまう。

もちろんスムージングソフトにも色々あるらしく、かなりうまく処理できるものもある。
しかしひどいスムージングソフト(個人的な判断だが、一体どこがスムーズなんだ!図3・4)もあるし、文字拡大の指定をしたら強制的にスムージング処理してしまう機種もあるのだ。
デザイナーが、離れて見えるように配置した点がつながってしまったり、90度よりも鋭い角がとびだすのはツライ。拡大文字にはスムージングがあたりまえというなら、書体をデザインする段階で常にスムージング結果を見ながら作業を進めなければならない筈だ。しかし、そこまで気を使っているメーカーがあるだろうか?

最近は48ドットや56ドットのワープロも発売されたし、ドットデータではなくベクトルデータで書体を搭載する時代がもうそこまで来ているので、スムージング文字というのも一過性のものなのかも知れないが、書体をデザインしている人間にとっては、とても気になる文字処理機能なのだ。



消えた書体? 1988年3月

若者向け雑誌や漫画雑誌などで、かなり安定して使われている書体なのに表面的には存在しない書体がある。
発売元である写研の書体見本帳には掲載されていない。そして文字盤見本帳にもその姿は無い。しかし販売はされている。

この書体の発売は昭和47年。制作者はI氏。イボテ、イナブラシュなどの彼が制作した他の書体で分かるように、独特の個性を持つ書体デザイナーである。その彼の写研からのデビュー作がその不思議な書体なのだ。

書体に興味のある読者の方には、そろそろ書体名がわかってきたと思うが、その書体名は「ファニー」。
フェルトペンで一気に描いたと思われる、一見乱暴に見える書体なのだが、キレイで美しい写研書体群の中では異彩を放ち、あまり整っていない部分が面白い調味料となって、一部では根強い人気書体となっている。

この書体が、ナゼ見本書体帳に載っていないのか?たぶん発売当時は見本帳に掲載されていた筈だ。私は見た記憶があるのだが、当時の見本帳を持っているわけではないのではっきりした事は言えない。
丸善から出版されている佐藤敬之輔著「文字のデザインシリーズ・カタカナ」にはしっかり掲載されているし、昭和47年といえば第1回石井賞受賞書体の「ナール」が発売された年でまだまだ書体の数が少なく、この書体はかなり目立つ存在だった。

Funny.gif色々と調べていくと、少しずつファニー書体消失の原因らしきものが浮かび上がってきた。ファニーという同じ名を持つ書体が別に存在するのだ。

この書体はあるデザインスタジオが保有する書体で、制作者はO氏。そのスタジオのオリジナル書体見本帳を見ると、そのファニーには、(C)1973(昭和48年)と記してあるので制作年度はこちらの方が後らしい。

書体デザインは全く異質のもので、写研のファニーがフリーハンドの味を活かした小級数用としたら、こちらのファニーは見出し用のデザインだ。
たぶんO氏は、「ファニー」の名称を書体名として商標登録したのではないだろうか?そして、その権利行使によって写研の書体名「ファニー」は使えなくなった、と私は想像する。

写研の見本帳に「ファニー」が掲載されていたのは、わずか数年間だったと思う。(この当時の見本帳を保存されている方いますか?ファニーが掲載されている見本帳は将来、価値が出てくるかもしれませんよ!)

写植機メーカー最強の写研から現在も販売されていながら、10数年以上も前に見本帳から姿を消した書体。当然、若いデザイナーはこの書体を知らないし、印刷物で使用例を見つけ、書体名を調べようとしても、写植機メーカー3社の見本帳に見当たらなければ、残念ながら殆どの人があきらめてしまうだろう。

なんだかとても可哀そうなこの書体。できることなら、名称を変えてでも見本帳に掲載したらと勝手に考えるのだが、やはり無理な事なのだろうか?
現実にかなりの仕事に使用されていながら、その存在を知られていない書体。ファニーの英字綴りが、もしFUNNYだとしたら、その語源どおりに奇妙な運命を持った書体といえるだろう。



ワニのつかまえ方 1988年4月

自分が書体をデザインする立場上、当然書体の使われ方にもたいへん興味があり、なるべく多くの印刷物に目を通すよう普段から心掛けている。
そして1週間に1回程度は大型書店へも出かけ、各種出版物での書体の使われ方などを眺めてくる(殆どの場合、外側のデザインだけ)のだが、1年程前に面白い本を見つけた。

ピンクの蛍光インクで仕上げた派手なカバーに目をひかれ、タイトルを見ると「じょうずなワニのつかまえ方」。ワニのつかまえ方が1冊の本になるの?と思い、手に取ってみた。
そのオカシナ題名の本は世界中の雑学とか、さまざまな役に立つ知識とかをランダムに収録したB5判320頁のハードカバー本だった。

著者はイギリスのダイヤグラムグループ。定価1500円、発行は主婦の友社。カバーについている腰巻部分には「いまは無用の知識でもいつか必ず役に立つ!」とあり、内容は人工呼吸の仕方、ワインの飲み方などというまともな知識から、吸血鬼の見分け方、1年に4回誕生日を迎える方法など、おもわず笑ってしまう楽しいノウハウまで、ありとあらゆる情報が一杯つまっていた(もちろん表題のワニのつかまえ方もしっかりと)。

しかし、なんでこの本が書体と関係あるの?と皆様はお思いでしょうが(この本はすでに内容の面白さで各方面に紹介されているのでご存じの方も多い筈)、何とこの本は各項目ごとに書体・級数を変えて組んであり、写植書体見本帳としての機能も持っているのだ。

写研・モリサワの殆どの書体、リョービの一部書体を駆使し、各文章を印字。その文章のそばには、使用した書体のメーカー名、書体名、級数まで記してある。
この本は雑学を得るためにパラパラと読むのも楽しいし、グラフィック・デザイナーが自分のイメージに合った書体を見つける、書体見本帳としても、かなり役に立つ筈だ。

Wani.gif この本のように、本としての内容を持ちながらの書体見本は、いままでにリョービからスペシメンブック(内容は司馬遼太郎『花神』)。
モリサワからは、タテ組ヨコ組の18号(内容は宮澤賢二『税務署長の冒険』・村上春樹『午後の最後の芝生』)などがあるが、小説家の文章には個人的な好き嫌いがあるし、文章の途中で書体や組体裁が変わるのは、内容を読む側から見ればやはり不自然だと私は感じていたので、450余りのランダムな情報の一つ一つに書体を割当て、組見本としての機能をもたせたこの本のアイデアに私は感心した。

そして、この本のスゴサは、やはり写研とモリサワの書体を同時に使用したことにあると思う(リョービ書体がほんの一部だったのと、書体を捜す索引が無いのが残念)。
豆情報と書体組見本が一緒になった、この本のような新しい形態の書体見本帳がもっとたくさん出てくると楽しいと思いませんか?



海外漢字パワー 1988年5月

その書体を自分の目で確認したのは4、5年前。イギリスと中国がミックスされた雑多な都市、香港でだった。

漢字使用圏の国々には、かなり前から日本の写植機が輸出されていて、この国でもスーボ、ナール、アローGなどの、日本の写植機メーカーが販売している殆どの見出し用書体を見ることができる。

しかし、日本と海外漢字文化圏では字体の違う字種もあり、日本の写植機メーカーも海外漢字圏向けに字体を合わせて文字盤を制作しているようだが、すべての書体・字種をカバーすることはできないらしく、字体が合わずに切ったり貼ったり、色々と手を加え、なんとか使用している文字も目につく。
そんなチョットかなしいこの国の業界の現状をながめていた時に新鮮だったのが、冒頭の書体だった。

街で手に入れた雑誌や新聞をホテルの部屋でじっくり眺めていると、その書体は広告の見出しや広告主名などにかなり使われていて、大袈裟にいえばカラー広告の3分の1にはこの書体が使われていた。
末端を水平垂直にし、極端に整理したサンセリフのエレメント。ふところを大きく取り、四角を意識した字面。われわれ日本人にはマネできそうもないバランス。このスタイルの書体はかなり前からあるらしく、似たようなレタリングもあちこちで見かけた。

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しかし広告に使われている目の前のこの書体は、書体製品化されているようで、レタリングされたものとは違った雰囲気を持っていた(私も書体を制作する人間ですから、そのへんの所はなんとなくわかるのです)。

たぶん写植の文字盤になっているのではないかと、今度はその証拠を見つけるためにまた雑誌の頁をめくった。そして斜体のライン揃えで印字されたタイトルを発見。文字の変形のされかたが、レタリングされたものではなく、写植機のレンズで変形された特徴を持っていた。

日本で作られた漢字書体を不便なまま使うのではなく、自分たちの国で使う新書体をデザインする人がこの国にも居ることが分かって、私はなんだかウレシかった。
この書体のことは、それからしばらく忘れていたのだが、去年の秋にまさしく私が香港で見てきた書体が、写研から「創挙蘭」という書体名で発表されたので驚いた。

もちろん、日本で問題のある字体は書き直してあるし、両がなも日本で制作したのだと思うが、たぶん大部分は香港(台湾や中国の可能性もある)で制作されたものだろう。
そういえば「曾蘭隷書」も「紅蘭楷書」も海外漢字圏の人が制作したと聞いたことがあるので、漢字書体の輸入は目新らしい事ではないが、いわゆるデザイン書体と分類される新書体が日本へ輸入されたのは、創挙蘭が初めてではないだろうか?

昨年のモリサワ国際タイプフェイスデザインコンテストの和文部門1位は中国の人だったし、今年の石井賞タイプフェイスコンテストにも海外漢字圏から多数の出品があり、4名の中国人が入選しているらしい。
日本以外の漢字使用国からの書体輸入がこれから盛んになるかも知れない。



文字の魂、温もり感じる MB101 1988年6月

1年ぐらい前から少しずつ少しずつ、広告や雑誌の見出しにモリサワのMB101書体が目立ち始め、今では広告の半数近くはこの書体のお世話になっているような状態だ。

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この見出しゴシックMB101は、力強く張りのあるカーブと適度な黒みを持ち、どっしりとした味わい深いゴシック書体なのだが、一時期はリョービの小町や良寛だらけだった広告の見出し書体の流れをいつの間にか変えてしまった。

小町・良寛のブームはかなり意図的に作られた感じがしたが、この MB101はじわじわと自然に盛上がってきた気がする。

かなり前からある書体なのだが、今までは一部のタイポグラフィに関心の強いデザイナーだけしか意識的には使っていなかったと思う。
恥ずかしい話だが私自身、モリサワのゴシックは力強くイイナァとは昔から思ってはいたものの、見本帳からはこの書体の特徴を充分に読取る事ができずに、数年前からポツポツと広告などに使われだしたものを見て、イイ書体だなと確認した始末だ。

この書体の大好きな力量のあるデザイナーが、目立つ媒体でこの書体を使用し続けた事がまわりに伝染し、このブームとなったのだろう。
書体はブームになって初めて、多くの人達に知れわたり、あちこちでどんな文章にでも使われだし、ブームの最頂点では時には恥ずかしいミスマッチ的な使われ方をするまでになる。

そして、その書体の限界が見えてきて飽きられ、ブームは去って行くのだが、その書体の個性を生かした本当の意味で適材適所の使われ方をするのはブームが去った後だと思う。
ブームが終わった後は、たとえばナールにはナールの、スーボにはスーボの、そしてモリサワ特太楷書だったらモリサワ特太楷書の、各書体それぞれの場所に自然に収まり、デザイナーの意識の中に定着していくのでしょう。

MB101 の場合は、かなりゆっくりした広まりかただったし、使用範囲の広い書体なのでブームが去るという形にはならず、これからも当分の間、この傾向は続くと思われる。
この書体がいつ頃制作されたのか、私にははっきりわからないが、新しい書体には無い、文字の魂とか、温もりのようなものを感じて、いま一番気にいっている書体です。



イラストレーター 1988年7月

本誌の5月号でもアップル社のパーソナルコンピュータ「マッキントッシュ(以下Mac)」によるDTP パワーの特集があったが、私もつい最近Macを手に入れた。

コンピュータがさまざまな分野にすごい勢いで導入されている現在、版下制作(私の場合、書体制作のフィニッシュ)にパソコンが利用出来ないかと、かなり前からあちこちのグラフィックソフトをひやかし半分見ていたのだが、なかなかコレという物が見当たらなかった。
自分が普段机の上でやっている作業、鉛筆で描いたデッサンを筆や烏口で繊細に墨入れする感覚で、画面を見ながら作画できるものが無いのだ。

そして出力の問題。製図ペンとプロッターでは、線は引けてもベタが塗れない。マスキングフィルムをプロッターでカットするのも、何かもうひとつピンとこない(私が欲しいのは製版フィルムではなく、紙の上に描かれた版下原稿だから)。

しかしMACと、いま話題のポストスクリプト言語で作画できるグラフィックソフト「イラストレーター」を使うと、かなり繊細な版下が制作できる。
またMAC独特のマウスを使った分かりやすい作業環境は、パソコンに触るのが初めての私にもコンピュータを意識させない素晴らしいものだった。

そして出力には、アップル社のレーザーライタを使えば 300dpi の普通紙プリントが。ライノトロン社の電算写植機ライノトロニックを使えば 1270 か 2540 dpi の印画紙出力ができる。
300dpi では印刷用の原寸原稿としては問題があるが、1270 dpi ならば肉眼では出力時のドットは殆ど感じられなくなる。

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イラストレーターというソフトは、ポストスクリプト言語を開発した米国アドビ社が昨年発売したものだが、基本はスキャナーで取込んだラフスケッチなどを下絵にし、ペンツールを使ってきれいな線でトレスするという、イラストレーターというよりもフィニッシュワーカーに近いソフトだ。
思った通りの線を引くのには多少の練習が必要だが、これはどんなに素晴しい筆や烏口や製図ペンを使っても、初心者にはすぐにはきれいな線が引けないのと同じ事で馴れるしかない。

メリットは沢山あり、たとえば線にある太さを持たせた図形を、線の太さを変えずに拡大したり変形ができたりもする。
その他、コンピュータならではの便利な事が沢山あるが、基本はすべての線や図形情報が、数学的要素(ベクトル・データ)として扱われているので、小さくしても、どんなに大きくしても図形が崩れないということ。
そして基本の図形を作ったら、それを太くしたりアウトラインにしたり、シャドウをつけたり、変形したりのバリエーションも比較的楽に制作でき、版下制作やロゴタイプなどのデザインにも、そうとう役立つ筈だ。

まだポストスクリプト言語を搭載したプリンターは、わずかな機種だけだが、富士通、NECとポストスクリプトの採用が決まっているようなので今年中にはプリンターの機種も増え、価格も少しは下がるだろう。
図版は、この「イラストレーター」を使って私の創作かな書体「キャピー」をポストスクリプト・データで試作フォント化し、ライノトロニックで出力したものの一部です。



ポストスクリプト・キャピー 1988年8月

先月号で紹介したポストスクリプト言語で試作した、かな書体「キャピー」を利用してグラフィック処理を施した例を作ってみました。

Capieeps.gif 書体とはいっても試作の段階なので、キーボードから文字を入力できる訳ではなく、インスタント・レタリングのように、一字ずつ画面上で並べる作業が必要ですが、逆に考えると文字を目で見ながら自由な間隔(感覚?)で並べられるので、見出し用の書体ならこの方式も良いのではないでしょうか?(このフォント制作の過程は(株)ビー・エヌ・エヌ発行のDTP 専門誌「Bug News」8月号に掲載)

日本文字の場合は漢字の数という問題があるので、このやり方では少し無理があるのだが、アルファベット・フォントがこのようなデータで製品化されると(インレタを貼るように自由に文字を並べ、その後さまざまなグラフィック処理ができる)便利で楽しいだろうなァと考えていたら、なんと!レトラセットからMac用に「レトラ・スタジオ」というフォント・システムが発表された。

100種の書体、1〜999ポイントの拡大縮小、15種の変形メニューなどを含む、見出し用のフォント・システムだ。データはポストスクリプトではなく、Macユーザーには便利なクイックドロー・フォーマットで保存し使用できるらしい。発売は年末頃になるらしいが楽しみなソフトだ。

また、今回ポストスクリプト・キャピーを制作するのに使用したソフト「イラストレーター」は、すでに次のバージョン「イラストレーター88」が発売されていますので、興味があって詳しい事を知りたい方は前述の「Bug News」、同じ発行元の「MAC LIFE」などをご覧ください。

そして、2号続けて紙面に掲載させて貰った、かな書体「キャピー」。現在、電字システム(株)から写研・リョービ用の写植文字盤として販売されているのですが、(株)モリサワからも発売されることになりました。そして一部の電算写植でも冬頃から使用できるようになる筈です。



ナサケナイ世界! 1988年9月

先日、グラフィック加工サービスをしている、ある画材屋さんに立寄った。

最近は、この手の店も画材を売るだけではなく、各種ハードウエアを設置し、版下やレイアウト原稿を持ち込めば、さまざまなモノに加工してくれるようになった。
私も必要があって立寄ったのだが、各種加工サービスのメニューを眺めていると、粘着シートを利用したサイン用文字出力サービスが目に止まった。出力できる書体の中にゴナE、ナールDなどと表示してある。

この店のカッティングマシンは、海外に本社のある、かなり有名な会社のシステムなのだが、写研の書体が正式に搭載されてはいない筈。
少し店側の話を聞いて見ると、フォントデータを売りにくる人がいるというのだ。はじめは値段が高いので断わったらしいが、最後には4分の1程度の値段にまで値下げしたので購入したらしい。

文字出力サービスをする店側としては、写植機メーカーの知名度の高い良い品質の文字が出力できれば、それにこしたことはないので平気で使っているが、無断で海賊版を作られ売られている写研はたまったモノではないだろう。

カッティングマシンに搭載される書体の海賊版は何年も前から目にはついていたが、写研もとうとう頭にきたらしく、海賊版を非難する広告を出し始めた。遅すぎるくらいだ。

この手の海賊版フォントデータは、コンピュータ業界のあちこちにあり、ある会社はナールをドット文字にして販売して(ナールとは表示していない)いるし、タイポスもある日本語システムの中でドットフォント化されている。
この場合、本物のタイポスはまだ漢字が製品化されていないのに、このドットフォントは漢字も揃っているので、努力?が感じられ海賊版とは言いにくいが、商標登録されている「タイポス」を表示しているのがマズイと思う。

しかし、まあ32ドットぐらいまでは、はっきりとこの書体をコピーした確証がとれにくいので見逃されている(が、許されることではない!)のだろうけれど、アウトラインフォントでの無断複製は明らかにヒドイ!と思う。

話題のポストスクリプト・データでのフォント(かなだけでしたが)を販売している会社の書体を調べると、殆どがモリサワの書体を無断複製したものだった。
また、その無断複製フォントをコンピュータ雑誌が「さすがポストスクリプト・フォントは美しい!」などと、ほめた記事を掲載しているのだから、いやになってしまう。

恥も節操も秩序も無く、人が長い時間をかけて積み上げた仕事をカッパラってビジネスにしてしまう。本当にオソロシク悲しい、ナサケナイ暗黒の世界。

私の制作したタイプラボゴシックも、どこかで無断でフォント化したらしく、カッティングマシンを利用したサインディスプレイなどで最近見かけるようになった…



デジタルの新書体に期待 1988年10月

活字から写植、手動写植機からデジタル組版へと文字組版の形態は変わりつつある。
活字から写植への移行は、印刷方式の主流が活版印刷からオフセット印刷に変わったから、組版の方もそれに影響されて、活字から写植中心になったのだろうか?それだけではない筈だ。それぞれの書体の違いも、かなり影響しているのではないだろうか?

活字メーカーは新書体の開発を殆どしなかった。それに較べ、後発の写植機メーカーは活字と同等に書体数が追ついた後、魅力的な新書体を次々と開発していった。

ちょうど、その時期がグラフィック・エディトリアル・広告などの分野にデザイナーが急激に増え始めた頃とぶつかったので、写植の新鮮な書体が彼等に受け入れられ、写植の時代がきたのだと思う。

書体以外にもデザイナーから見れば写植の便利さがあった。変形レンズを使用すれば思った通りのスペースに文字を納める事ができる。そして印画紙に文字を露光するシステムは、活字と違って簡単につめ組ができた。
もちろん一つの字母から拡大・縮小するので大級数のときにはレンズの歪みや原字の粗さが気になったりしたが、レンズの歪みは最近では殆ど無くなったし、原字も、古く汚いものはリファインしたようだ。

豊富な書体と、写真の技術を応用した自由のきく組版システム。手動写植機の黄金時代だ。
しかし、いま押しよせるデジタルの波。当然、デジタルにはデジタルの便利さがあるので、写植機メーカーはデジタル写植機を開発・販売しているし、保有の書体をどんどんデジタル化もしている。

一方、デジタルデータ・システムならば活字や写植機メーカーより得意だぞ、ということで各種コンピュータ関連会社などがデジタル文字出力機市場に参入している。しかし、書体が足らない。

手動写植機の時代は、まず、その時代の主流である活字書体と同等の書体を揃える事から始まったのだが、コンピュータ関連会社の書体保有数は、従来の写植機メーカーの書体数にまだまだ追つかない。
ハードウェアは日毎に進歩して素晴しくなっていくのだが、書体の数では、何十年もコツコツと書体を増やしてきた写植機メーカーに分があり、コンピュータ関連会社が書体数で追つくのは不可能に思える。

追つけないものなら逆に活字・写植業界にはない、新しい書体を開発した方が得策ではないだろうか?
手動写植機の黄金時代には、活字には無い新鮮な書体が大きく影響を与えた筈だ。

コンピュータ関連会社も、いままでの写植には無い、新鮮で魅力的な、時代とシンクロする書体を開発すれば何とかなるかも知れない。このような独自の新書体を開発するには大変なエネルギーと時間が必要なので、簡単に出来ることではないが、こういう事ができるパワーを持った会社ならば、従来の写植機メーカーとデジタル出力機の市場で同等に戦えるだろう。

ますます本格化するデジタル文字出力の時代。いままでの写植機メーカーが制すのか、それともコンピュータ関連会社が時代の勢いで業界を席巻してしまうのだろうか。10 年、20年後には何らかの結果が出ていることだろう。



気になるデジタル3書体 1988年11月

前号で、デジタル出力の新書体に期待すると書いたが、すでに発売されている書体の中から3書体を紹介する。

Hitachi.gif一番手は日立の「つれづれ草」。殆どの人が日立のワープロ広告などでみたことがあると思うこの書体は、ペンで書かれた美しい筆記体をドットフォント化したものだ。
似たようなコンセプトの書体は写植機メーカーの書体にもあることはあるが、これだけ上品にうまく筆記体を再現した書体は、見当たらない。

この美しい「つれづれ草」の秘密は、文字を正方形の枠に当てはめてデザインするのではなく、手書きの文字の自然な形をそのままフォント化しているからだ。
そしてタテヨコ共に、各文字が字幅情報を持っていて、つめ組みされて出力されるので、動きのあるのびやかな線質を持つ、美しい文章が組み上がる。
たぶん、かなり高いドット数までフォント化されるだろうし、アウトライン・フォントになる可能性もある書体だ。

次は、日本で最初のワープロを開発した東芝のタイポス・スタイルの書体。
私が数年前に購入した東芝のワープロには搭載されていたのだが、最近の機種には使われていないらしい。
このスタイルの書体は、本家のタイポスなど写植機メーカーにいくつかあるのに、ここで、わざわざこの書体を取上げたのは、このタイポス系のデザインがデジタル出力に適していると私が考えているからだ。

Toshiba.gif 現在の出力機の状況ではアウトラインフォントを使っても、いくら高解像度になっても、結局は整然と並んだ小さな点で出力される。2540 dpi ぐらいになると人間の目では見分けられなくなるが、普通紙プリンターの300〜400 dpi クラスでは簡単にドットが見えてしまう。
そして標準書体としてどんな出力機にも搭載されている明朝体の特徴である、ウロコとよばれる部分は、斜め線で構成されているので、この部分がどうしても階段状になりキタナク感じる。

その点このタイポススタイルにはウロコの部分が無いので、とてもスッキリ見える。
このスタイルの書体こそ、デジタル出力の標準書体になるべきだと考えたりもする私は、東芝のこの書体の復活を願っている。

3番目の書体は富士通の「まる文字」。この書体もいまのところドットフォントだが、写植機メーカーが丸文字系の書体を、かな文字盤だけ発売してお茶を濁しているのに、この「まる文字」は、しっかり漢字まで揃っている。
かなり短期間で作られたフォントらしいが、24ドットにしてはうまく雰囲気をだしていると思う。

Marumoji.gif 丸文字現象を一時期の流行のように、あんなモノはすぐにすたれると言う人もいるが、大衆の中から自然に出てきた筆記書体が、そんなに簡単にすたれるとは私は思わない。
毛筆書体に草書・行書・楷書などのスタイルがあるように、硬筆書体のひとつのスタイルとして定着するだろうと私は考えている。



DTP と日本語書体 1988年12月

欧米でのDTPブームの総本山である、アップル社のパソコン「マッキントッシュ」と専用のプリンター「レーザーライタ」の組合わせは大変素晴しいもので、使えば使うほどその凄さが分かってくる(日本人が日本語で使うのにはまだ少し問題があるが)。

そして、私が評価したいのは「レーザーライタ」に搭載されている欧文書体だ。
8系統35書体が標準で使えるわけだが、アヴァンギャルド、ブックマン、クーリエ、ヘルベチカ、ニューセンチュリー、パラティノ、タイムス、ツァップ・チャンスリーと日本でもよく知られ、欧米でプロの印刷業者に使われている素晴しい書体が、イメージを損なうことなく殆どそのままの状態で、見事にポストスクリプト・データ化されている。
標準以外の書体も、データ化されたフォントが多数用意されていて、好きなものを購入すればすぐに使える。欧米でDTPがブームになる筈だ。

一方、日本語DTP書体の貧弱なこと!もちろん字数の問題、字画の多さなどで日本語の文字をアウトライン・フォント化するのが大変なのは分かるが、データの元になっている原字の得体が知れない。
今のところは活字会社の書体を利用しているシステムが多いようだが、みんなに親しまれている写植書体を搭載したシステムが無い(もうすぐモリサワのリュウミンとゴシックがアドビ社との提携で実用化されると思うが)。

日本では、印刷用書体を数多く保有している写植機メーカーと、DTPシステムを開発している会社での書体に関する提携が、あまりうまくいっていないらしく、DTP開発側では独自に書体を作ったりしているが、使う側からすれば、得体の知れない書体よりは、印刷業界で親しまれている書体を使いたい筈だ。

DTP、DTPと日本でもこのシステムを普及させようとしているが、「印刷業者に頼まなくても印刷業者が作ったものに近いものが得られる」というのがDTPの謳い文句ならば、ナールやゴナ、ツデイやMBなどの書体が、素人でも自由にレイアウトしたり、印刷できるシステムになって欲しい。

また、写植機メーカーが互換性のあるデータで、末端ユーザーにフォントを販売するようになれば面白いと思うが、まだまだ先の話だろう。
残念ながら、現在の状況では、書体が豊富で理想的な日本語のDTPシステムに、一番近いモノは電算写植機の入力・編集・校正システムなのかも知れない。

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