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フォント購入者が、使用時にさまざまなグラフィック的な加工をするのは認めます。
しかしこの例は、違います。平成○×書体ではなく、別の名称のフォントとして販売されているのです。
私は、この2つのフォントの当事者ではありませんので、これ以上のことは述べません。
しかし、自分の書体がこのように利用されたら、たまったものではありません。
マネしたとか、似ていると言う問題ではなく、あきらかに他者のデザインデータを利用しています。
皆さんは、どう思われますか?
11月15日、Microsoft Research Group が開発したという「ClearType」という技術が 発表された。また新しいフォントフォーマットが現われたのかと一瞬思ったがそうではなく、画面上で文字を綺麗に表示する技術のようだ。
「ClearType」は、カラーモニタ上では1ドットが、R(赤)・G(緑)・B(青)・の3原色に分かれていることに目をつけ、それを制御することで白黒文字の輪郭に3分の1ドットのRGBどれかの色を足し、スムーズな表現を実現するのだ。
黒い文字に灰色で補完する、従来のアンチエイリアス方式とかグレースケールフォントと違い、よ〜く見ると文字の輪郭に少し色が感じられるが、普通に文章を読む時は問題ないレベルだ。
ここに ClearType の情報があります、英文ですが図版を見れば大体理解できるでしょう。
この技術は特許取得中ということだが、20年前に Apple II でウォズニアック氏が開発した技術を RGB の3色に適用しただけで、すでに特許保護期間を終了し開放されている技術だ、との意見もあるようだ。
どちらにしても、ハードウエアを買い替えることなく、ソフトウエアの処理で文字表示が改善される技術は、ありがたい。早く広く普及すれば EメールやWeb上のテキストも格段に読みやすくなるし、フォントデザインの画面上での再現性も向上するはずだ。
●第1章 CIDフォントフォーマットはなぜ必要か?
文字コードとCIDフォント・OCFフォントの問題点とは・OCFフォントの構造・グリフデータアクセスの仕組み・CD-ROMでできるインストール・プリンタフォントの解像度・字体の切り換えとその意味・CIDフォントの文字詰め機能・Acrobat出のフォントの置換・CIDフォントの問題点1、2
●第2章 フォントが出力されるまで
フォントフォーマットの違い・ビットマップフォントの外字エリア・ATMのバージョン・フォント名とその性格・PostScript Type42とは・フォント辞書とフォントキャッシュ・フォントの塗りつぶし・低解像度出力のためのヒント情報。
●第3章 フォントの仕組みと作り方
文字コードと文字セット・人名外字のフォント処理・作字の方法・プロテクトフォントのアウトライン化・1バイトの日本語フォントの作成・フォントの書き出し・外字フォントの調整・レイアウトソフトでの調整・2バイトの日本語フォントの作成
●第4章 レイアウトソフトで文字を組むときの基本ルール
文字組みの基礎知識・禁則処理の対象になる文字・約物の半角扱い・和欧間の4分アキ・和欧混植の文字サイズとベースライン・プロポーショナルフォントの文字詰め・ルビの振り方
●第5章 レイアウYトソフトでフォントを出力するときの上級テクニック
プリンタフォントの確認・プリンタにないフォントの出力1、2・レイアウトソフトでアウトライン化・組み替えフォントの作り方
「標準DTP出力講座 フォント攻略編」280ページ
著 者 上高地仁
発行所 株式会社 翔泳社
ISBN4-88135-686-0 C3055
発行日 1998年11月30日
定 価 3,000円+消費税
パソコン関連書籍宅配便でも購入できます。
横組みの時は行の下側に、縦組みの時には右側に寄って配置されています。
大きさの基準は特にありませんが、私の場合かな文字の80〜85%を大体の目安にしています(これは標準より大きいと思う)。
小さくしただけでは他の文字と混じった時に細く見えますので、その後少し太く処理するのが普通でしょう。どの程度小さくするか、どの程度下げたり寄せるかも、書体デザインの重要な部分なので私は結構気を使っていますが。
拗促音のデザインに関して、写研のナール書体が少し面白い試みをしています。
ナール書体の拗促音類は、縦組み用と横組み用が違う形をしているのです。字面ギリギリまで文字を大きくデザインすることで文字間隔の不均等をなくし、綺麗に並んで見せようとする、この書体の拗促音類は、前後の文字と間隔が空かないように、横組み用は横長に・縦組み用は縦長に作られています(図参照)。
私も一時期この考えに同調し、キャピーの拗促音は横用と縦用とで変えようと思ったのですが、当時のワープロや各種パソコンの文字を扱うソフトウエアは、縦組みにしたときの拗促音の扱いに統一性がなく、横組み用の拗促音文字を、ソフトの内部処理で位置を変えて縦組みに使用するものがあったりしたのです。
当時はJISのフォントセットに縦組み用の基準がなく、みんな勝手にやっていた時代だったのでしょう。そんな状況では実際に使われるときに混乱を招く危険があり、縦横別々の形をした拗促音のデザインは断念し、どちらも同じ形にするしかありませんでした。
いまはJISが定めたのか知りませんが、縦横別々にコードがついていますので、デジタルフォントの世界でもナールのような拗促音のデザインが可能でしょう。
このフォントブームの発端ともいえるデジタローグギャラリーが「FONT WORLD EXPO `99」に展示・販売するフォントを公募しています。
応募された全ての作品は無審査で会場に展示され、希望者は販売することも可能です。さらに優秀作品はCD-ROM「フォント\パビリオン」に収録、商品として流通されます。
マッキントッシュ用のオリジナル・デジタルフォント(PostScript Type 1形式)なら誰でもが出品でき、 作品の未\既発表も問わず、何作品でも構わないそうです。
締切は1998年11月30日、詳細はこちらをご覧ください。
問合せ:デジタローグギャラリー
TEL:03-3408-2494 FAX:03-3401-5933
e-mail:entry@digitalogue.co.jp
しばらくは傍観していた成澤も、我慢が出来ずに年の暮れに Macintosh plus を手に入れ、二人ともメデタクMacユーザになった。どうせなら二人でMacを使う共同の仕事をすれば、打ち合わせと称してもっと酒が呑めるんじゃないかという不埒な考えで、佐藤が日本語アウトライン・フォントを作ろうと言い出す。
そのころ市販のワープロ機に搭載されているフォントは24〜32のドット文字が主流で、まだ日本語書体が搭載されたPSプリンターも発売されてはいなかったのだが…。
早速打ち合わせと称する呑み会が続き、互いの事務所のある渋谷と両国で、どれだけの晩、何杯の酒を呑んだだろう。季節が変わり、呑むのにも飽き、互いの身の上話も尽きた頃、暗い酒場の片隅でやっと本来の話が始まった。
・原字と呼ばれるアナログのデザイン原稿を作らずに直接MacとIllustratorでデザインする。
・書体の各エレメントを中心線でデザインし、Illustratorのストローク機能で角と末端を丸に指定し丸ゴシックにする。
・骨格の雰囲気は「ゴナ」程度にし「ナール」までふところは大きくしない。
・太さは60/1000程度の細めのウエイト。
長い期間アルコールで熟成された、書体に対する思いが次々に吐き出され、たった15分で書体デザインは決定し、その夜二人はこの書体に関しての契約を交わした。
これ以外の仕様書のようなものは全く作らなかったが、互いの頭の中には完成した書体のイメージがしっかりと存在していたので、別に困りはしなかった。
当時のIllustratorには、中心線に与えたストローク情報の太さや形を輪郭線に変える機能はなく(Fontographerにも)、プレビュー画面やプリンタ出力でしかデザイン結果が確認できないという悲惨な状況だったが、輪郭線を抽出する技術は将来絶対に実現すると二人は信じ、1989年 Macintoshだけで作る、我々の書体デザイン計画は白黒9インチのモニタの中でシコシコと動きだした。
普通、文字間を詰めたがるのはグラフィックデザイナーだ。
彼らは、ベタ組(漢字もかなも均等な配置)のままでは、かな文字の字間がパラパラと空いて読みにくいと言う。文字間を詰めると本当に読みやすくなるのか?
私の答えは「読みやすくなるのではなく、見た目が良くなるだけ」である。
文字が配置されるピッチがすべて同じだと、漢字に較べれば、かな同士が並んだときには、確かに字間が空いて見える。しかし、それは日本語書体殆どすべての特徴であるし、私は読みにくいとは思わない。彼らは、見た目が少し格好悪い=読みにくいと感じているのか?
読ませるということでは専門の、文芸物の出版物では、かな文字を詰めることなど行われていない。昔は活字を使って版をつくっていたから詰める訳にはいかなかったのだが、これは写植システムの時代になっても、今のようにデジタルシステムを使い自由に字間調整ができるようになっても変化していない。
私もかなり文章を読む(内容は問わないで欲しい)人間だが、漢字とかな文字が均等に配置されていて、読みにくいと感じたことはない。目の前にある文章に自分が興味があれば、かなの字間のことなどまったく気にならないのだ。それよりも1行の長さとか、サイズ・行間・約物の処理などの方が読みやすさに影響があると思う。
文芸物に掲載されている文章は、プロが執筆したものだ。読ませるだけのモノが文章に含まれているし、読む側も自分の嗜好に合ったものを選んでいる。そんな時、読む側は字間とかはまったく気にならず、どんどん読み進んであっというまに1冊読み終わってしまうのだ。これは普通のワープロ出力されたものでも、モニタ上で読む最悪の条件でも変わらないだろう。その文章に読ませるだけの内容があれば、スムーズに内容が目を通して脳に届いてしまう。
一方、つまらない文章を読むとき(自分は興味がないのに仕事で目を通さなければいけないなど)、読むことに集中できずに、書体デザインに目がいったり、レイアウトを気にしたり、字間行間に興味がいってしまう。
グラフィックデザイナーの仕事の大半は商業印刷物だ。宣伝広告の要素を殆どが含んでいる。相手が特に必要としていない文章でも何とか読んで貰わなくてはならない。その為には見た目の美しさが必要になり、書体を工夫したり、文字間を綺麗に調整することになるのだと思う。もちろん字間詰めには、限られたスペースに文字がたくさん入れられるとか、文章の密度が高まり緊張感の様なものを感じさせる、など他の効果もあるとは思うが。
しかし、きっちり字間詰めされた文章を数10ページ読んだら、かなり疲れると思いませんか?
文字組みが美しく見えるから、読みやすいと決め付けないで欲しい。私は本文組では、かな文字間の適度な空間や句読点が目を休ませてくれていると感じている。
文芸物の出版物をもう一度眺めて見よう。本文中では、かな文字が詰められたりせずに字は均等に並んでいる筈だ。しかし、その本のカバーデザイン(宣伝広告的部分)の書名タイトルなどは書体の表情を工夫したり、きっちりと字間が詰められたり(あるいは空けてあったり)視覚的な演出が積極的にされている。読ませる文字組みと見せる文字組みでは、異なる方法で処理されているのである。
私自身も、文字組みが含まれる仕事をするときは、殆どの場合、見出し部分は詰める。しかし、それは読みにくいから詰めるのではなく、見た目を良くするためにやっているのだ。
「見た目が美しい」と「読みやすい」とを混同しないで欲しい。
●Macintosh用
●Fontographer4.0J以上が必要
●このソフトで作成されたフォントを使用するには、ATM3.91J 以上が必要
●RIPへのダウンロードは、PStoolを使用する。
写植・版下業から出発し、現在は多言語翻訳・DTPを生業とする(株)ヒシキが、必要にせまられ開発したというこのソフト、価格も手頃ですし役に立ちそうですね。
この会社は「愛の文字盤」という一風変わったソフトを以前開発しており、今回のソフトは2弾目ということです。
まだヒシキのWEBページには、このソフトの情報はありませんが、発売後にはWEBページでも情報公開やサポートをするそうです。
株式会社ヒシキ
東京都品川区五反田
たくさんの商品の中から、自分の趣味嗜好に合わせた一品を選ぶ楽しみだってあるのだ。違う趣味のいらないものなんか抱き合わせないで欲しい、と思いませんか?
そうは言っても、フォントが一般の人達を対象に販売されるようになってまだ10年たらず。フォントを売っている店が全国どこにでもあるわけではく、フォントのサンプルカタログを手にすることもままならない。
初期のレコードプレイヤーにはオマケのレコードが1枚ついて販売されていた。ビデオデッキの初期にも似たような販売戦略があったようだ。
フォントがパソコンやOS、各種ソフトにバンドルされていたり、数十書体まとめて○○円などという商品がまかり通る現在の状況は、フォントを使う楽しみがまだ一部の人に限られ、流通も価格も不満足な、一般商品としては初期の段階だからなのだろう。
本は書店で内容が確かめられる。音楽もラジオやテレビで聞いてから購入すればいい。服だって試着ができる。
しかしフォントは試しに使って見ることができない。これでいいのだろうか?
私が始めた、漢字数を制限したフォントの無料頒布は、フォントの試供品である。ダウンロードされた方からのコメントに「無料とは太っ腹ですね」というものがかなりあるが、私にとっては、フォントの内容をしっかり確かめて、安心して購入できる状況を作りたいと願っての、販売促進活動なのだ。
その販促活動の第2弾、かなロゴ・プレゼント(もちろん無料)を始めた。こちらは面倒な手続き無しの、お好きなものをご自由にというスタイルにしてみた。興味のある方はトップページからどうぞ。
●借り物のマッキントッシュ
年が明け、昨秋のクヤシイ2日間の記憶もアルコールで溶けかかったある日、突然 BNN(出版社)のY氏から電話があり、マックを貸してもらえることになった。
とりあえず、800KフロッピードライブのMacintosh Plusでアドビ社のイラストレーターを1週間使用してみてくれ、ということだ。
イラストレーターは、今話題のポストスクリプト言語でグラフィックを描くことができるのだが、操作がちょっとやっかいで、たったの一週間では思ったとおりの線をビュンビュン引くまでにはならなかった。
たまたま数カ月前に、有料のマッキントッシュ講習会に参加していた(私は落ちこぼれてしまったが)ので、わりあい楽に操作できたのだが、初めてマックに出会ってすぐにこのソフトを使えと言われたらとても無理だったろう。
Macintosh Plusがあっという間に去って、しばらくすると今度はSEのハードディスク内蔵タイプが替わりにやってきた。今度は1ヵ月くらいは貸してくれるらしい。とりあえず最初の2週間は、前回覚えた操作の復習と新たな技術修得に熱を入れた。一通りの操作を覚えると、生意気にこのソフトでオリジナルのフォントを作ってみようという気になっていた。
「ポストスクリプト」という言葉を私が初めて耳にしたのは、写植機メーカーであるモリサワが、ポストスクリプト・フォントのための原字をアドビ社に提供する契約をした、という雑誌の記事だったし、その後、香港あたりでポストスクリプトの漢字フォントを作り始めたグループがあるという情報も耳にしていたからだ。
●イラストレーターでフォント作り
私の職業は書体デザインだから、今までにもコンピュータ用の書体デザインの話が何度かあったが、その殆どが、ビットマップ・フォントだったので、あまり仕事をする気にならなかった。しかし、このポストスクリプト言語なら私のオリジナリティを表現できるし、プリンタの密度さえ上がれば、限りなくアナグロ文字に近い再現も可能に思われ、以来ずっと興味を持っていたのだ。
まず、どんな書体をイラストレーターで作るか? このソフトの基本は、スキャナで取り込んだ画像や、他のアプリケーション・ソフトで作った画像を下書き(テンプレート)にし、その上に各種ツールを利用して作画するという、イラストレーターというよりもフィニッシュ・ワーカー的性格を持っているので、このソフトでまったく新しいオリジナルデザインをするのは、今回の時間的制約の中では無理がありそうだ。で、私が写植用に作った最新のかな書体「キャピー」をポストスクリプト・フォントにすることにした。
しかしスキャナが無い! オリジナルの文字原稿を縮小コピーし、それをスキャナーを持っているK氏に郵送してスキャニングしてもらうことにした。K氏は私のために快く時間を割いてくれ2〜3日でスキャンデータの入ったフロッピーディスクが送られてきた。
一つの書類に6文字ずつ入ったスキャンデータをテンプレートにし、ペン・ツールできちんとなぞれば一応文字の形が出来上がるのだが、筆や烏口を使ってきれいに描いた原字を、SEの9インチ・72dpiの画面上で、しかも操作の複雑なツールで再作成するのは結構ツラかった。
マックに不慣れな事もあり、途中、半日かけて作ったデータを消してしまったり色々と大変だったが、1週間ほどで濁音・半濁音などを含めたひらがな約80字をトレースすることができた(当時トレスした文字の一部)。
●しかたなくインレタ方式
次の作業は、スキャンした時に文字が傾いていたのを直し(イラストレーターに読み込む前に他のグラフィック・ソフトで直しておいた方が良かったか?)、フォントとして使う時に重要な、字の中心を決めるトンボを各文字につける。
出来上がった文字を欧文フォントのように、キーに割り振れれば良いのだが、このソフトはフォントを作成する専門ソフトではないので、そういう事は出来ないらしい(フォント・グラファーというソフトでは作成したポストスクリプト・フォントをキーに割り振ることが出来るそうだ)。
しかたがないのでマック得意のコピー&ペーストで貼り込むという、インスタント・レタリング方式をとることにする。
あいうえお順に1文字ずつ均等に並べ、1画面上にひらがな全部を収納した。画面上で文字はかなり小さく、汚くなってしまったが、文字本来の形はデータ上ではまったく崩れていないわけで、ポストスクリプトの便利さが少し確認できた。
使い方は、まず必要な文字をクリック(複数の時はシフト・クリック)選択して、コピー。画面上の文字を並べたい位置でペースト。もちろんそのままでは、文字がバラバラなので各文字についているトンボを利用してきれいに並べ換える。横組には水平方向のトンボを、縦組には垂直方向のトンボを使用し、位置を揃える。文字同士の間隔は、自分の目で確認しながら自由に決められるので便利だ。
そして、このトンボは印刷時には透明になるように設定してあるので、となりの文字と重なっても平気だし、はずす必要はない。最後までつけておいた方が文字を並べ換えたいとき楽なのだ。
●日本語の悪条件をアイデアで補う
出来上がったポストスクリプト・フォント「キャピー・ひらがな」を使っていくつかの例を作ってみた(サンプル)。すべてイラストレーターで制作、プリンタが無かったので途中で確認が出来ず不安だったが、レーザーライター&ライノトロニック300の出力サービスを行っているショップへフロッピーを持ち込みプリントアウトした。
今回は、ひらがなだけしか作成できなかったが、カタカナも作成すれば使用範囲はかなり広がると思う。もちろん漢字もあれば最高だが、漢字というのは200や300作っても意味がなく、最低JISの第1水準は必要となっておそろしく時間もかかる。そしてそれを記憶する媒体にもまだまだ問題がありそうだ。モリサワとアドビのフォントにしても、ライセンス契約の発表からもう1年半ぐらいたつが、まだ正式には製品化されていない。かなり大変な作業なのだろう。
ポストスクリプト・フォントは300dpi以上のプリンタを使うと効果的なわけだが、かなだけのフォントじゃ使い道がないと思われるかも知れない。しかし、レーザーライターを使用し、搭載されている欧文ポストスクリプト・フォントとひらがな・カタカナだけでも、少し頭をひねれば何とか使えるのではないか。
拡大してもきれいなポストスクリプトの利点が活きる、見出し用の文字だけに使用を限定し、例えば「大売り出し」という文字を「BIG SALE」とか「ビッグセール」に置き換えればいい。意味はそれほど変わらない。このように日本人お得意のジャパニーズ・イングリッシュを漢字の代わりに使用すれば英字とかなだけでも、何とか格好はつく(かなり無理な考えですが、漢字を使わない新しい表現方法になる可能性も?でもエライ人たちが怒るだろうね)。
●フォント制作は著作者の権利を考えて
最後に、これから次々とポストスクリプトで作画できるグラフィックソフトが出てくると思うし、フォントを作ろうとする人もたくさんいる筈だが、ひとつ気を付けて欲しいことがある。
世の中に出回っている書体にはすべて権利保有者がおり、書体を個人的にフォントデータ化し、個人レベルで使っている分には問題はないが、そのフォントデータを複写して人に配布したり売ったりすることは、書体の権利保有者に損害を与えることになる。
すでに日本語ポストスクリプト・フォントが一部で商品化・販売されており、一部には権利者の許諾を得ずに無断で作った物があったりする。低密度のビットマップ・フォントと違い、ポストスクリプト・フォントのようなアウトライン・フォントは限りなくオリジナルに近い再現をするから、無断で使われれば権利保有者も黙ってはいないと思う。
せっかく日本で盛り上がってきたMacintoshとポストスクリプト環境に、そんなつまらないことで水をささないで欲しいと願っている。しかし、一般ユーザーがオリジナル書体を作るのも大変なことだと思うので、かなだけでも必要だという要望があれば、私が今までにデザインしたかな書体を、ポストスクリプト・フォント化し、Macintoshとポストスクリプト環境に提供したいと考えている(1988年春)。
※BugNewsはコンピュータゲーム文化誌として創刊され、その後日本初のDTP専門誌に衣替えした。この文章が掲載された半年後くらいにMACLIFEと名を変え現在まで発刊を続けている。
一つのオリジナルがあれば、後は機械的に複製が容易な創作分野。たとえば、出版・映画・音楽などの世界では、作品を楽しむための料金差は殆ど無い。新人作家も著名作家も本の値段は似たようなものだし、製作費○○○億円の映画も数千万円で作られた映画も入場料には差がない(一部に2本興行とか、割増料金があるが)。音楽業界でも、新人と売り上げ実績のある人でCDの価格に特に差は無い。
これらの業界では、どんなに高額な製作費がかかっても、それを楽しむ側の価格が高くなるわけではない。収益は、多くの人々を喜ばすことで得ている。しかし、公開されたすべての創作物の採算が合うわけはなく、淘汰の厳しい成熟した世界だ。
フォントの世界も同じ分野の筈だ。オリジナルが出来れば、後は機械的に複製できる。そろそろ「激安」とか「お買い得」という安さでフォントを売るのではなく、前述の世界のように、同じような価格・規格で製品をつくり、各フォントの個性や内容で真剣勝負する業界になって欲しい。
私の考える理想のフォント価格は、漢字まで全部揃ったフォントが音楽CDのアルバム価格程度。かなだけとか、欧文だけのフォントはシングルCD程度の価格なのだが。
納豆がウマイのか・マズイのか誰も決められない。嗜好とは、自分の口に合うか・合わないか(好きか・嫌いか)なのだ。人それぞれが違う境遇のなかで育ち、違う人生を送っている。見てきたものも手にしたものも、人によって違う。当然、嗜好も違うものになる。
特定の書体にこだわるデザイナーは沢山いる。しかし、その理由は、形や雰囲気が好きだという、他人には説明しにくい嗜好的なものなのだ。
書体デザインに限らず、創作物への評価が全員一致することなど有りえない。
同じデザインを見ても感じる部分は人によって違う。美人とか色男の基準が全員一致しないように。
美術・デザイン学校での教育者や、社会へ出てからの先輩達が、なにげなく「あの書体は悪い」とか「良い書体はコレだ」とか若い人達に個人の嗜好を押しつけてはいないか? 良いモノだけを教える、純粋培養的な育て方もあるかも知れない。しかし、色々なモノをたくさん見たり経験しているうちに、自分が好きなモノが見つかる。というのが自然だと私は思っている。
未知の可能性を持った若い人達は、与えられた情報を鵜呑みにするのではなく、自分で悩み考え判断する力をつけて欲しい。
違法な作り方をしたと確定できる書体ならともかく、書体のデザインを「良い・悪い」と評価することは、なるべく避けたい。それは生き物を自分の都合で、益○と害○と分ける事と似ている。すべての書体も生き物も、何らかの目的や必要があって生まれてくるのだ…。