この「かな書体」の悲しい過去を教えます
 

2012年の春、タイプラボから頒布が開始されたニタラゴルイカ書体。
この書体、漢字部分は「ルイカ」だが、かな文字はフォントワークスの「NTLG」やモリサワの「タイプラボN」と同じデザインだ。

「NTLG」も「タイプラボN」も、タイプラボがデザインして両社にライセンスした書体だから、権利関係は何の問題も無い。
しかし、同じデザインの書体なのに、なぜ違う名前で呼ばれることになったのか、その経緯をここに記すことにした。

 

●タイプラボ・ゴシック誕生

1982年ごろ、若手タイプフェイスデザイナー8名が集まり、タイポパワーズというグループができました。
各自が新書体をデザインし、グループで展覧会を催し発表することを目標に、活動を始めます。

佐藤は、ひらがなカタカナの画線の端を水平垂直に見えるようにデザインした、かな書体を制作。
幅広く使えるデザインだったため、イメージが固定してしまう具体的な名前をさけ、自分の事務所の名前そのままに「タイプラボ・ゴシック」と名づけました。

その書体は、1984年1月30日〜2月4日に銀座のギャラリーオカベで催した、タイポパワーズ1984展で発表しました。
出品者は、伊勢谷浩・鴨野実・小芦重幸・佐藤豊・瀬野敏春・滝政美・与口隆夫の7名です。

(展覧会作品集より、漢字部分はゴナ書体)

グループ展での発表と同時に、ゴナ書体を販売していた写植機業界トップの会社に郵送プレゼンしたのですが、何の返答も得られませんでした…。

それなら自分で写植文字盤を売るか…ということで、文字盤製作を外部に委託して自主販売を始めました。

(自主販売時にタイプラボが配布したリーフレットの一部)

1985年「タイプラボ・ゴシック」が、日本タイポグラフィ年鑑に入選。

(年鑑1985、掲載ページ)

1986年には、写植機業界2位の会社から「タイプラボ・ゴシック」が写植文字盤として発売されました。この頃の文字原図は、烏口や筆を使ってインクや墨で紙に描いていました。

(モリサワ写植文字盤、タイプラボ・ゴシックのリーフレット)

 

●タイプラボ・ゴシックから、ニュータイプラボゴシックに

そして約10年後「タイプラボ・ゴシック」のデザインに満足できなくなった佐藤は、水平・垂直をさらに強調しスマートにリデザインした「ニュータイプラボゴシック」をデジタルデータとして完成させ、あちこちにプレゼンしていきます。
この頃、パソコンを利用したDTPが産声をあげ、これを機に写植業界が衰退をはじめました。

1995年「ニュータイプラボゴシック」が、日本タイポグラフィ年鑑に入選しました。

(年鑑1995、掲載ページ)

そのニュータイプラボゴシックを最初に商品として販売したのはC社です(1996年)。
FontGallery TrueType Deluxe CD 2(CD '97)というパッケージに収録されました。

そのとき、ちょっと悲しい事がありました。
 

短くしてくれと言われて、NTLGとなる

その商品CDに付随するツール(フォントをインストールする物か、かなと漢字を組み合わせる物だったか忘れました)が、フォント選択メニューに8文字しか表示されない(1バイトの英数文字の場合)仕様だったのです。
日本語だったら、4文字までしか表示されません。
「キャピー」「ハッピー」「墨東」などは問題ないのですが、「ニュータイプラボゴシック」は「ニュータ」という表示になってしまいます(笑)。
C社からは、とにかくそういう仕様なので、不満ならフォント名を短くしてくれと要望されました。
当時からとても素直だった私はその要望に従い、New Type-Labo Gothicの頭文字から「NTLG」と短縮名を決めたのです。

いま考えれば、何のイメージも湧いてこない覚えにくい名前だったと思います。しかし、じっくり検討する時間は貰えなかったのです。
ということで、デジタルフォントとして初めて販売される時に「ニュータイプラボゴシック」は「NTLG」というフォント名になってしまいました…。

1997年には、フォントワークスから発売されることになりました。
フォント名を販売会社によって変えるのは嫌だし、どこから販売されても同じ名前を使う…というのが、以前からの私の考えです。
ということで、フォントワークスでのフォント名も「NTLG」となりました。

 

こちらでは、タイプラボNとなる

そして2004年、モリサワから販売される時、また問題が起きました。
この会社では、すでにタイプラボ・ゴシック(タイプラボG)を写植文字盤で販売(前述)していて、モリサワユーザはその名前に慣れ親しんでいる…という大人の事情がありました。
結局、その慣れている名前の後ろに、Newの略の「N」という文字を加えた「タイプラボN」という名前で販売されることになったのです。

ということで、プレゼンした時には「ニュータイプラボゴシック」という名前だった書体が、商品化される時に「NTLG」と「タイプラボN」という2つの名前になり、ユーザを混乱させることとなりました。

3つの名前を持つこの書体を、自分が販売する時にどんな名前にすればいいのか。
ずいぶん前から悩んでいました。

 

●そしてニタラゴ

「NTLG」も「タイプラボN」も同じ書体。しかし、すでに世の中に出回っているフォント商品の名前を変える訳にはいかない。
そして「ニュータイプラボゴシック」という名前は、やはり長すぎる気がする。
そこで私は、統一した通称というか俗称というか略称というか(笑)、そういうものを考えることにしました。

英字のNew Type-Labo Gothicの短縮形が「NTLG」でしたから、今度はカタカナ名の「ニュータイプラボゴシック」を短縮して「ニタラゴ」です。

ということで、当社オリジナルの総合書体ルイカと組み合わせたフォントは「ニタラゴルイカ」ということになりました。

本家本元の制作者タイプラボとしては、皆が「NTLG」や「タイプラボN」のことも、「フォントワークスのニタラゴ」とか「モリサワのニタラゴ」と、呼んでくれたら嬉しい(笑)。

以上、よろしくお願いいたします。
(関係者の皆様へ:遠い昔のつたない記憶を頼りに記しましたので、事実と違う点などあったらゴメンナサイ)

 

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