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1997/12/11〜1998/05/21


フォントの埋め込み 1998/05/21

 最近、フォントの埋め込み(Embed)という言葉をよく目にしたり、聞いたりするようになりました。自分が使用したフォントを、特殊なフォントデータにして書類内に含めることですね。
 フォントの埋め込みには、二つの流れがあり、現在先行しているのはAdobe Acrobatに代表されるPDF書類(Portable Document Format)です。
 Acrobatで作られたPDF書類は、インターネット上でもかなり使われていますので、知っている方も多いと思います。
 英語版のAcrobatではフォントの埋め込みが実現され、相手側に同じ書体が無くても、同じイメージの書類を見たり印刷することが可能になっています。
 ところが日本語版のAcrobatでは、日本語フォントの埋め込みができません。そのうちに埋め込み可能になると思うのですが、日本語PSプリンタの仕組みと同じように、日本語版だけ特殊な仕様になってしまうのかな、というイヤな予感もあります。

 日本語PSプリンタは、パソコン側に日本語アウトラインフォントがあっても、プリンタ側にも同じフォントが入っていなければ、正常にプリントされません。
 しかし、欧文仕様のPSプリンタでは、パソコン側の欧文フォントを使用して簡単に出力できるのです。もちろん大量の書類を速く処理するためにプリンタ側にフォントを入れることも可能です(日本語PSプリンタでも欧文フォントはこのように処理されます)。
 なにか日本人だけ面倒な仕組みを押しつけられているようでイヤですね。日本語PSフォントを購入してきて、それをパソコンとPSプリンタに入れるのは、とても面倒くさい作業です。デザインや印刷を職業としている人達は仕事ですから、イヤでも仕方なく使用していますが、そろそろ堪忍袋の緒も切れそうですね。それがPSフォントのCIDフォーマット移行の遅れにも現われているのかも知れません。いままで増やしたフォントを全部入れ変える作業は誰だってやりたくありませんものね。

 話しが少しそれましたが、以前、日本語版AcrobatではCIDフォーマットのPSフォントしか埋め込みはできない仕様になるというウワサがありましたが、近いうち(秋頃か)に結果が判明するでしょう。

 フォントの埋め込みのもう一つの方法は、OpenTypeという新しいフォントフォーマットを使用することで可能になるのですが、まだ日本語のOpenTypeフォントが市販されていませんし、OSや各アプリケーションの対応が必要と思われますので、実現まで少し時間がかかりそうです…。

 


毛筆フォントの無料ダウンロード 1998/05/12

 私が今年の1月末から始めたフォント(キャパニト-L教漢)の無料頒布は、現在までに約1700名の方達が正規に登録してくれました。無料の日本語アウトラインフォントはこれまで殆どなかったので、多くの方からお礼のコメントが届いています。

 実は、頒布するフォントの漢字部分を教育漢字に制限するというアイデアは、私の考えではありません。半年以上も前に兵庫県で印章店を営む丸岡さんがWebページ「パンドラの箱」で実践していたことなのです(Windows用フォント)。
 無料で毛筆フォントが4種もダウンロードできる、このページは当時、印章業界だけをターゲットに公開しており、よそに紹介したりリンクを付けては困る、と制限があったので、ここで紹介する訳にはいきませんでした。

 今月8日、毛筆フォント無料ダウンロードの恩恵が受けられる、そのページは「白舟書体」と名前を変えWebデザインも変更し、一切の制限が無くなり一般に公開されました。
  現在「白舟篆書」「白舟楷書」「白舟行書」「白舟古印体」の4種類の毛筆系TrueTypeフォントがダウンロード可能で、各Windows版とMacintosh版が用意されています。

 この無料フォントの文字種は、教育漢字とひらがなカタカナのみで、記号・約物類は含まれていません。

 


アニト物語…2 1998/05/08

●ベジェ曲線との出会い

 次の日の午後、講習会場には飲み過ぎと睡眠不足で疲れた二人の顔が並んでいた。
すでに落ちこぼれたという意識のある佐藤と成澤に与えられた次の試練は、ClicketDraw(たぶん)というソフトだった。
 ツールボックスからツールを選び、マウスで四角や丸を描く。そして描いた図形を選択し、メニューから「スクリプト」というコマンドを選ぶと画面上に

 "newpath 100 50 40 0 360 arc stroke" 

と英文らしきものが表示され、いまオマエが描いた図はこのように文字で記憶されている、と教えてくれるのだ。これが逆に、英文をタイプしたら画面に図形が描けるという仕組みだったら二人はすぐに部屋から逃げ出したと思う。とにもかくにも、これがポストスクリプト言語だとか説明され、体調の悪い佐藤と成澤はだまって判ったフリをすることにした。
 次のソフトはIllustratorの1.1(だったと思う)。ベジェ曲線を使った自由曲線の描画だ。アンカーポイント、コントロールポイントとかコーナーポイント・スムースポイントと、いろんなことを教わるのだが、マウスがまだうまく動かせないのに、このやり方で線が自由に描ける筈がない。烏口とか筆ならば思い通りに描けるのにと、二人のイライラはつのるばかりだ。
 そして、自由曲線が描けるようになったのだから、すこし仕事らしいことをしましょうと、講習はさらに恐ろしいスピードで進む。
 会の主催者に事前に郵送しておいた文字原稿が、すでにスキャンされており、そのデータを各自フロッピーで渡された。それを画面上でグレーに表示し、その上からトレースしていくのだ。
 この作業は、ラフスケッチの上にトレーシングペーパーを被せ、墨で清書するこれまで経験してきた方式なので、そんなに違和感はなかったのだが、マウスとベジェ曲線ではとにかく思うようにならない。こんなやりかたで本当に文字のデザインができるのか…二人の視線は窓の外の遠い空の彼方へいったきり、モニタの前にはなかなか戻っては来ないのだった。
 
 休憩時間に、他の人達はどのように感じているのか、聞いてみた。
「そんなことはないよ、馴れればどんな線でも引けるようになるよ」
返事をしたのはY氏だ。
 佐藤が、じゃあ下図無しで空飛ぶ円盤が描ける?と意地悪く問うと、彼は箱型の分厚いマウスを軽やかに手繰り、横から見たアダムスキー型のUFOをスイスイと描いてしまうではないか。あの素早い動きは昨日今日マウスに触れたという手付きではない。オカシイ、絶対に変だ。二人が周りにそれとなく尋ねると、受講者の殆どが、Macをすでに所有していたり、勤務先にあると答えるのだった。オイオイみんな初めてじゃないのか?我々二人だけか初心者は!

 その後、自分達で描いた文字はネットワークされた小さなプリンタから出力された。二人はA4サイズのプリントをじっくり観察した。72dpiのモニタではかなりぎくしゃく見えた線もプリントではきれいになっているし、大きく表現された文字ほどカーブは滑らかに見えている。それまでのパソコンのグラフィックとかワープロ文字とかのプリントとは全く次元の違う世界に、二人は体調が悪いのを一瞬忘れるぐらい感動し二日間の講習は終わった…。

 マウスは初めてだったからうまく操作できなかったが、二人ともワープロマシンは所有していて、遊び半分に使ってはいるのだ。Macとやらも面白そうだし手に入れて見るかと、講習終了後にC販売の人に尋ねると、Mac本体が約100万円、欧文しか印刷できないA4で300dpiのレーザープリンタも100万円以上すると知らされる。
 その晩、昨日と同じ居酒屋に、溜め息を肴に涙目で黙って生ビールをぐいぐいと呑み続ける佐藤と成澤の姿があったのは言うまでもない。(つづく)

※講習会の主催者はC販売と猪股裕一(現MdN)、受講者には小塚昌彦(現アドビ)・山本太郎(現アドビ)・杉山久仁彦(デザイン・ウィズ・ハート)などの面々がいました(敬称略)。

 


アニト物語…1 1998/04/20

●Macとの出会い

 1987年9月某日。三田駅からキツイ陽射しの地上へ出ると、佐藤は近くの駐車場内に営業している屋台のラーメンで昼食を済ませ、汗を拭きながらC社ビルを目指した。幸いにビルはすぐに見つかり、エレベータで目的の会場へ向かった。
 会場にはすでに参加者が何人か集まっており、佐藤はその中に成澤の顔を見つけ隣の席に座わる。
 講習会などでよく見かける4人掛けの長い机には、可愛い形をした一体型のパソコンが二人に1台の割合で配置されていた。
 前方には、インストラクターと思われる数人が小声で打ち合わせを続け、エアコンの小さなノイズと軽い緊張感が部屋を漂う。しばらくすると先ほどの汗も引っこみ、空いていた席は参加者で埋まり、「デザイナーのためのMacintosh講習会」1日目が始まった。

 佐藤が初めて Macintosh を意識したのは、この講習会の数か月前に、工業デザイナーの川崎和男氏が六本木で催した、Macを使用して制作したデザインワーク展を見てからだ。
 佐藤はパソコンが気にはなっていたが、友人のCGアーティストが作画のためにプログラムを書く数学的な作業を見るたびに、自分にはパソコンは無理かなと思い直すことを繰り返していた。
 それまで見てきたパソコンで作るグラフィックは最高でも640×480程度のビットマップだったし、プリントしても階段状のジャギーがあり、いままで使ってきた筆や烏口でのドローイングにはほど遠く、仕事に使えるレベルではなかったのだ。
 しかし川崎氏の展覧会で見たMacは、小さな白黒のモニタで、画面ではビットマップ表示なのだが、プリントするとそれまで見たこともない高い品質で文字や曲線がプリントされるのだった。
 その場にいた友人のYさんと、モニタとプリントを見比べ、どういう仕組みか考えたがパソコンに疎い二人に解かるはずもなく、ただ Macintosh はこれまでのパソコンとはまったく違う、何かスゴいモノだという印象が強く残った。

 そんなところへ、このMac講習会の案内が飛び込んできたのだ。参加費も高額だし、二日続けて仕事を休まなければならないので躊躇したのだが、このままMacのことを知らないでいるのもイヤだし思い切って参加することにした。それでも不安の残る佐藤は、タイポグラフィ協会の行事で知り合い、最近親しくなった成澤にも声をかけたのだ。

●マウス!

 講習会は、マシンの起動、フォルダの開き方、と次々に進む。しかし初めて手にするマウスが思うように動かせないのだ。成澤と佐藤は相手がマウスでモタモタしていると、ほらこっちをこうするんだとマウスを奪い自分でやろうとするのだが、結局はうまく操作できず、二人がひとつのマウスに翻弄されているうちに講習はどんどん先に進んでいく。
 しばらくすると、前方にあるインストラクターが使用している大きなモニタ画面と、自分たちが使用しているMacの画面に共通の部分は無くなり、二人は未知の世界に放り出されたのだった。すでにインストラクタの声は耳に入らず、画面の中をマウスであちこち押しまくっているうちに、爆弾マークが初対面の挨拶してくれた。
 その後も画面が停止したり(いまなら、あっフリーズしたなんて言えるけど)、爆弾の挨拶は出まくり、電源スイッチを勝手に切ったり、コンセントまで抜こうとする二人の後ろには、アシスタントのきれいなオネーサンが張り付いて、マシンを壊されはしないか、監視する始末に。

 その日なんとか覚えられたのは、マウスは尾っぽを上にして持つ、クリック・ダブルクリック・ドラッグというマウスボタンの押し方、ビットマップ図形とドロウ図形の違い、程度の簡単なことだったと思う。しかし二人にとってはムズカシイ内容だったようで、講習会の終了後すぐに居酒屋に飛び込み「もうついていけない」「お金をドブに捨てたようなものだ」「グレてやる」などとぐちりながら、佐藤と成澤は生ビールをぐいぐいと呑み続けるのだった。(つづく)
※講習会で使われたMacintosh Plusは、9インチの白黒モニタ、FDドライブ1台、CPU速度7.83MHz、RAM 2M、英語OSのみ、という今では全く信じられないスペックのマシンだった(講習会で使ったマシンには外付けのFDドライブも繋がれていた)。

 


OpenTypeに関するメーリングリスト 1998/04/09

 デジタルフォントについての情報・技術交流を行う非営利団体 [FontAid] 事務局の松下さんから届いたOpenTypeの話題をメインにしたメーリングリストの案内です。

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[FontAid]の最初の目的である、メーリングリストが開設されました、これからが本番といったところです、[FontAid]メーリングリストを末永くご愛用(?)下さい。

メーリングリストの名称は OPENTYPE・FONTAID
メーリングリストのE-Mailは fontaid@iijnet.or.jp です。

事務局からは[FontAid]メーリングリストへの登録手続きを行いませんので登録は”各自で直接”行って下さい。メーリングリストの管理者は松下ですが、個人情報の公表は一切致しません。

メーリングリストへの書き込みには必ずしも本名である必要はありません、ハンドルネームでも構いません、ユニークな覚えやすいハンドルネームなどは返って良いかもしれません。この際各自のプロフィールや自己紹介なども独自の判断で行うことにしましょう。

メーリングリストに良くあるように「ネチケットを守りましょう」などと言うような書くのも憚るようなルールなどは掲げませんのでご承知置きください。但し管理者としてメンバーのプライバシーを守るなどの必要最低限の処置はするつもりです。

▼メーリングリストへの加入は次の通りです。
最初に request@iijnet.or.jp 宛、本文に以下のように書き込みメールする。

subscribe fontaid
end

と書き、(end をつければ実行するコマンドが限定されるので付けたほうが完全です)送信すると自動配信のリターンメールが直ぐきます。それを良く読んで返送すると、再度リターンメールが来ます、それもまた良く読んで再々度返送します。

管理者である小生のところに、皆さんから申し込みのメールが来て、こちらでメンバー登録の手続きをすると、それで終了です。

このような面倒な手続きは最初だけです、いたずら登録などを防ぐためです。さあ、がんばってトライしましょう。

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 私も一応この団体に参加しています。フォントの未来をみんなで考え作り上げていきましょう。気楽に参加してください! 専門家だけに任せておくととんでもない未来になってしまうかもしれません、フォントを使う側の方達ももっと意見を出してください。

 


キャパニト制作記…2 1998/02/19

 その問題とは…Fontographerから書き出した1バイトのTrueTypeフォントのアウトラインデータの一部が崩れることです。水平垂直の線は変化しませんが、曲線部分が微妙に変わってしまいます。初めは何かの設定ミスだろうと思い色々と手を尽くしたのですが、状況は変わりませんでした(サンプル)

 Fontographerというソフトの描画機能はベジェ曲線を使用したものなので、PostScriptフォントを書き出すときは問題ないのですが、2次Bスプライン曲線を使用するTrueTypeフォントを書き出す機能はあまり優れていないようです。特にベジェが得意なゆったりした大きな曲線部分に問題が発生しました。
 最後の望みをかけて、漢字エディットキットに付属している漢字デザイナーという描画ソフトも利用してみたのですが、結果は変わりませんでした。曲線部分がデザイナーの意図どおりに再現できていない…そんなフォント困りますよね。
 結局、試行錯誤したものを色々調べると、Fontographer(以下Fg)の3.6というバージョンと4.1.4バージョンで書き出したTrueType(以下TT)の崩れがそれぞれ違うことに気づき、Fg3.6のTTの中の崩れの目立たないキャラクタと、Fg4.1.4のTTの同じく崩れていないキャラクタを、Fg4.1.4上で合体させたり、どちらでも崩れているキャラクタは崩れないように何回も書き直したりしたのです。
 それでもPostScriptフォントと全く同じ形にはなりませんでした。とても文章では言い表せない面倒な作業の連続で、一時は日本語フォントの制作をアキラメかけた程です。

 そして、必要なデータがすべてTrueTypeファイルで揃い、2バイトの日本語フォントを作ったのですが、また小さな問題が発生しました。一部のTrueTypeファイル部分のキャラクタが表示されないのです。原因は、Fg3.6から書き出したTrueTypeファイルでした。
 Fontographerで作ったデータを漢字エディットキットで利用する場合、Fg4.x以上で書き出されたデータでなければうまくいかないようですね(以上の問題点は私の作成したデータのみに発生したものかもしれませんが)。
 
 今回の制作で解かったこと。
●Macintosh用の一般に小売りされているフォント作成ソフトでは、デザインに忠実で正確なTrueTypeフォントを作るのはかなり難しい(特にカーブ部分)。
●漢字エディットキットでFontographerデータを利用する場合は、必ずFg4.x以上を使用する。
●ついでに判明したのだが、Fg3.6のデータをFg4.xで開いた場合、描画の一部が崩れることがある(タンジェント部分)。

 無料頒布しているキャパニトフォントは、使用上は特に何の問題もありませんが、私の基準からすればホンの少し不満足なフォントなのです…。
 インターネットを利用した、書体関連の次の企画も準備中です(7月にかなロゴ・プレゼント開始)。

 


キャパニト制作記…1 1998/02/12

 Macintosh用フォントの無料頒布を始めて約2週間。インターネットの世界的なルーティング情報の混乱と時期がダブってしまいアクセスしにくい状況の中、100人ちかくの方達が使用者登録をしてくれた。
 この試みに対し、殆どの人が励ましの言葉を送ってくれました。普段、フォントを買って使ってくれている人達とは、接触する機会がありませんので、どのコメントもとても新鮮で身にしみるものばかりでした。個別に返事は出せませんが、私の心にしっかり刻み込ます。
 私自身はフォントの無料頒布を、特に広報活動をする気はなく、インターネットのWWW上で、この試みがどれだけ拡がるかを静観するだけです(皆さんはどんどん人に伝えて構いません)。

 昨年の秋に「漢字エディットキット」を手に入れた時は、自分が制作中の書体をシミュレーションするのに便利かな?としか考えませんでしたが、知人がWWW上でWindows用日本語フォントを配布(残念ですが公開できません)しているのに刺激され、私も似たようなことを計画したわけです。

 商品版と同じものを無料で頒布するのはマズイ(私も経済的に困る)ので、かな部分に「キャピー」、漢字部分に「アニト」を組み合わせた「キャパニト」フォント(安易なネーミング!)を作ることにしました。漢字部分も全て揃えるわけにもいかず、申し訳ないが教育漢字に限定しました。
 権利関係では、キャピーは私のデザインですが、アニトは成澤正信との共同デザインなので、彼にも承諾を得ました。どちらの書体も他社と独占的な契約は結んでいないので、他に問題はなく、計画を実行することにしました。

 漢字部分に使用する「アニト-L」は、Fontographer3.6で作ったオリジナルデータを使用できるのですが、かな部分のキャピーは、アニト-Lに合わせて新しく作らなければなりません。
 いままでアチコチの丸ゴシク系漢字書体用に提供してきたキャピーは、デジタルフォント用だけで実に13ウエイト(大きさの違いも数えると17種)にもなるのですが、アニト-Lと太さ・大きさがピッタリ合うものは無かったのです。

 材料が揃い、簡単なテストを始めました。今回作るのは日本語TrueTypeですが、私が持っているオリジナルデータはFontographerというソフトで作ったもので、商用フォントとしてフォントメーカーに渡すときも、殆どはFontographerのそのままのデータです。
 今回試みた、漢字エディットキットでのTrueTypeフォント制作では、Fontographerから1バイトのTrueTypeフォントを書き出し、それを沢山集めて2バイトの日本語フォントにするのですが、そこで大きな問題が発生しました。(以下次号)

 


キャパニト頒布開始! 1998/01/29

 週刊で続けていたこのページを不定期にして、約1か月過ぎた。アクセス数も急激に減ったわけではなく、少しホッとしている。
 その間のんびりしていたわけでなく、実はインターネット上で無料頒布するフォントを作っていたのだ。

 書体名は「キャパニト」。昨年の秋に発売された「漢字エディットキット」を使用して最終的に仕上げた、Macintosh用の日本語TrueTypeフォントだ(Windowsユーザの方には申し訳ないが)。
 
 このフォントは、全角かな部分にはキャピーを、かな以外の文字には、アニトを使用して合成したのだが、「漢字エディットキット」の仕様で、ビットマップ・フォントを含んでいない。
 当然、小サイズでの画面表示などではあまりキレイに表示されないのだが、グラフィックソフトなどである程度の大きさになればキレイに表示される(サンプル)し、プリントでも極小サイズでないかぎり問題はないだろう。

 私はプロの書体デザイナーだし、キャピーもアニトも商業用にデザインした書体だ。タダで頒布してどうするんだ!という意見もあるかもしれないが、私はやってみたかったのだ…。
 もちろんキャピーやアニトを販売してくれている会社に迷惑の掛からないように気をつかった。漢字は教育漢字(1006字)しか含んでいないし、かな部分のキャピーもキャパニト用に特別に作ったウエイトなので、他の商業書体と組み合わせてもマッチしない筈だ。キャピーとアニトの売り上げにマイナスの影響は無いと思う。

●フォントは現実に使ってみなければなかなかイメージが掴めず購入しにくい。この方法でキャピーとアニトが現実にどんなデザインなのかを体験してもらえる。
●インターネット上で使用者登録という手続きをして、フォントをダウンロードする人がどのくらい存在するのか、知りたい。
●小学校の低学年や家庭内のパブリッシングには、このままで充分使える(少しボランティア気分)。

 などと、いろいろ考えまして今回の無料頒布となったわけです。まあ、一時の勢いが衰え、売り上げが低迷しているらしい、日本語フォント業界の刺激になればイイかなと…。
 キャパニトの無料頒布の数が増えれば、商品版のキャピーとアニトの売り上げも増えるだろうと考えている私は、甘いでしょうか? (無料頒布のページへ

 


今年から不定期刊になります 1998/01/01

 1996年4月18日から週刊で続けてきた「書体ウオッチャー」ですが、今回以後は不定期刊になります。
 インターネットを利用して、書体の頒布とか色々なことを計画しているのですが、書体ウオッチャーを毎週続けていると、まとまった時間が作れずに、いつまでも実行できないので、こんな形になりました。

 小さなコメントは、昨年10月に開設した「フォントの談話室」で代用しますし、何回か書いた「かなの形」シリーズも継続するつもりでいます。
 これからも、よろしくお願いいたします。

 


書体の制作期間…他 1997/12/25

 先日開催されたSEYBOLD SeminarsやWWWページで大々的に発表されたアドビの小塚明朝だが、制作期間は2年(7名の人員で6ウエイト)と伝えられている。
 いつも一人で書体をデザインしている私の立場から、乱暴に換算すると1ウエイト分を一人の人間が約2年で作ったということだ。私はCIDフォントの約8700文字を、2年では満足に仕上げられないだろうから、私よりは早いペースといえる。
 しかし、本当に小塚明朝は2年で制作されたのだろうか? 開発の指揮を取った小塚昌彦氏がモリサワからアドビに移籍したのは1992年だ。当時から氏は書体制作の人材を集めていたから、1993年頃からこの書体の制作は始まっていたはずで、小塚明朝の制作には4〜5年費やされていると私は推測する。
 発表された2年という数字は、支援ソフトが完成しデザインも最終的に決定され、さあ本格的に始めるぞ、といった時期からの時間だろう。創作物の制作には不可欠の、アイデアや構想を練る時間、デザイン試作などの期間を含めたものだと私には思えないのだ。7人で6ウエイトを4年なら、一人1書体を約4年の計算になる(乱暴は承知だが)。これなら私と大差ない制作期間なのだが。

 なぜ、制作期間を現実に費やした時間より短く発表(私の勝手な憶測だが)するのだろう。支援ソフトの優秀性を伝えるためか? 技術力を誇るためなのか? 同業者間の内輪話ならわかるが、書体の制作期間をユーザに伝えることに何か意味があるのだろうか? たった5分で作られた楽曲に感動することもあるし、数年掛けて完成した楽曲に失望することもある。
 感情を表現する創作物の価値と、制作に費やされた時間には何の関係もないと私は考えている。だから、今回の小塚明朝とは逆に、長くなった制作期間を品質の良さに転嫁し、書体の宣伝文句に使用したりするフォント制作会社も私は嫌いだ。
 ついでに言えば制作者自らが、これは良い書体ですとか言うのも笑ってしまう。良いか悪いか(好きな言葉ではない。好きか嫌いか・気に入るか気にいらないかが本当だ)を判断するのは、制作者ではなく、購入し使う側と、それを読んだり見たりする側の人間だ。

 書体デザインを含めた、すべての感情表現物は、受け取る側の趣味・嗜好・思想・体験などによって価値が決められるもので、制作過程の技術や仕様書の情報に左右されるものではないと思う。
 製作費ン十億円、制作期間ン年、評論家がベタホメの創作物でも、その作品を受け取る個人の感情が動かなければ、その作品は個人にとって何の意味もないのだ。映画・音楽・小説などの作品で、皆も多くのクヤシイ体験をしていると思う。

 何回も繰り返して述べているが、制作者や第三者が提供する書体に関する情報を鵜呑みにせずに、自分の価値観で使いたい書体を選択して欲しいと思う。デジタルフォントを使うのは自分だし、購入するのも自分なのだから。
 今回は、自戒も含めた文章ですので関係者の皆さん、気を悪くなさらずに…。

 


JIS漢字字典のコラム 1997/12/18

 日本規格協会から「JIS漢字字典」が出版されました。
この字典はJIS漢字の最新規格 JIS X 0208を元に編集されたもので、JIS漢字が容易に的確に利用され、より広く情報交換に役立つことを願って作られたそうです。
 私も資料用として一冊購入しました。字典ですので、何か調べたいときにしか使わないだろうと思ったのですが、パラパラと目を通していたらコラムがあるのに気づきました。厚さ40ミリの本文中に挿入された、この小さな読み物は全部で35個。それぞれがJIS漢字周辺のお話しです。まだ全てを読んではいないのですが、結構面白い情報が書かれています。ここに全コラムの題名を記しますので興味のある方は、「JIS漢字字典」を手に入れて読んでください。

 78JISの字体
 葛飾区はいつから葛(78JIS字形)飾区になったか
 吉田首相の決断
 単位切り…その1
 当用漢字字体表
 1字姓名の音訓
 地名音訓
 理科系? 文科系?(長音表記と漢字コード)
 誰が漢字を作るのか?(JISが漢字を作る?)
 部首分類―昼は尸、又は日か?
 異体字幻想(着者と到著)
 梼原町と檮原町
 単位切り…その2
 単位切り…その3
 緑夢ちゃん(訓?)
 字体と字源主義
 人名の漢字についての数字いろいろ
 単位切りの必要性と連濁
 枕詞「玉桙」の「桙」が「JIS漢字」に採用された理由
 幻地名
 いろいろな書き方のあるよみ
 地名及び人名の漢字表だけから採録された「JIS漢字」
 「JIS漢字」名所
 人名・地名を探す
 続・「JIS漢字」名所
 拡張新字体と朝日文字(鴎外先生は本当は?)
 諸橋「大漢和辞典」の文字番号を付与する作業…1
 JIS漢字は漢字制限論の産物?
 誰が文字を作るのか?
 「乕」の字体と明朝体デザイン
 新JISへの文字追加と外字
 諸橋「大漢和辞典」の文字番号を付与する作業…2
 人名の漢字あれこれ
 「JIS漢字」を使い切る文学は可能か
 表記から見た姓名の多様性

芝野耕司編著
「JIS漢字字典」A5判上製 1036頁
日本規格協会 発行
定価4800円

 


デザインが崩れる! 1997/12/11

 最近のDTP用やCGのソフトは、フォントからアウトラインデータを取得(抽出とも呼ばれる)できるものが多い。この機能のおかげで、デザイナーは市販フォントの文字にアレンジを加えたり、3D処理をしたりすることが可能になった。
 またDTPでのPSフォント出力時には、データ作成に使用したものと同一のフォントが出力機にも必要なのだが、文字をアウトライン化したデータを使用することで、出力機に同一フォントがなくても変則的に出力できるようになり、多くのデザイナーがこの方法で仕事をしているようだ。

 フォントのアウトラインデータ化は使用者にとっては良いことのようだが、書体デザイナーの立場から見れば、単純には喜べない。
 この画像は年末商品広告の一部を抜粋したのだが、「す」の縦棒がくるりとまわった内側の空白(この場合は赤い楕円)部分が左にずれ、文字デザインが崩れているのだ。
 多分、文字をアウトライン化した後、位置を微調整しているときに操作上のミスでこの部分だけ別に動いてしまったのだろう。
 この広告の上半分は、私のデザインした「墨東」で構成されており、書体の作者としては大変嬉しいデザインなのだが、このようにデータが崩れて(意図的にこうしたわけじゃないですよね?)しまっては、逆にツライものがある。墨東書体をよく知らない人には、こういうデザインの書体だと思われてしまう。

 このように、操作上での書体デザインの崩れに気がつかないまま使用された印刷物は、少し気をつけて印刷物を眺めていれば毎日発見できるぐらい多くなっている。
 頑固にフォントのアウトライン化をユーザに許さないモリサワの方針も、この問題に関しては良い選択なのかもしれない。
 活字や写植の書体が使われていたころにはありえなかった、困った現象だが、デザイナーの方々はフォントをアウトラインデータに変換して使用する時は、このような点に充分に気を付けて仕事をして欲しいと思う。

 


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