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1997/4/03〜06/26


精緻な文字の風よ吹け 1997/06/26

 日本図書設計協会が主催する、出版デザインに関する企画展Book Scape(ブックスケープ=文字の風景)9回展の情報です。
 私は「タイトル文字主導により制作された装丁」という部分に興味が湧きました。以下は、案内はがきからの転載です。

時代を越えて一閃の光を放ち続ける銀座。その輝き・エスプリを創作本に具象化してみました。さらに視知覚の先鋭・タイトル文字主導により制作された装丁作品のを数々を展示いたします。どうぞ清新あふれる装丁家たちの「価値創造指向」にもとづく作品群をたっぷりご賞覧ください。

Book Scape 9
銀座光芒「精緻な文字の風よ吹け」装丁展

出品者 加藤光太郎 金子裕 河井宣行 川畑博昭
    久保和正 小泉弘 小島トシノブ 志賀紀子
    島田拓史 下川雅敏 鈴木堯 徳本弘臣
    丸尾靖子 道吉剛 ローテ・リニエ
会 場 王子ペーパーギャラリー銀座
    東京都中央区銀座3-7-12王子不動産ビル1F
会 期 6月30日(月)〜7月11日(金)
時 間 am11:00〜pm7:00(無休・最終日はpm6:00まで)
主 催 日本図書設計協会
協 力 (株)渋谷文泉閣

 


CIDフォントついに登場! 1997/06/19

 アドビシステムズ社(米国)が随分前から提唱していた、CIDフォント(Character ID Keyed Font)が6月下旬モリサワから発売される。
 CIDフォントについては「従来のフォントに比べ、メモリ容量の消費が少なく、ラスタライズも高速化される」程度のメリットしか私は知らなかったのだが、本来の目的?が少し見えてきた気がする。
 CIDフォントの、速度や容量以外のメリットとして

●フォント自体に詰め組み情報を保有
●字体置き換え機能(JIS83、JIS78、旧字体等)
●種類の違う文字セット、エンコーディングへの対応

などが今回発表されているが、3番目の機能を利用して、JIS第一・第二水準に含まれない約3000字の文字種の拡張が計画されているのだ。
 1990年にJISが規定した補助漢字6000字(JIS X 0212)が殆ど役に立たなかった経験から、アドビは文字種をいつまでもJIS規格に仕切られていては、印刷出版業界での不満を解消できないので、このCID方式を考えたのではないだろうか?
 3000字の内訳は、モリサワが自社システムで使用している漢字と人名用漢字が約1000字。JIS外の約物、ルビ、合成記号、合成漢字、分数、カタカナ単位記号、合成欧文、などが約2000字となっている。

 今回発売されるモリサワフォントにはこの「拡張CIDフォント」はまだ含まれていないようだが、これが実現すると印刷出版業界での外字の不満がかなり解消され、印刷出版業界でのポストスクリプト化がより一層進むことだろう。

 また、いままでのモリサワPSフォントのバグなども今回のCIDフォントで一気に修正したようだし、低解像度用プリンタフォントの解像度制限が、従来の600dpiから1200dpiまでに変更されたそうです。
 フォントのバージョンアップや価格、そしてCIDフォントの詳細などはモリサワのページで確認して下さい。
 文字アウトラインデータの改訂リスト(必見!)などもPDF (Portable Document Format) 書類で用意されていますので、ぜひAcrobat ReaderをインストールしてPDFを体験してください。私もこの改訂リストを見るために初めてAcrobat Readerを使ったのですが結構奇麗だし、このフォーマットも興味深いですね。
 どうせなら、上記の拡張CIDフォント約3000字をアドビかモリサワがPDF書類で公開してくれるとウレシイのですが…

 と、原稿を書き終えたら新しいニュースが届いた(06/18)。
通産省が1999年にJIS第三・四水準として漢字コードを拡張すると発表した…。
 内容は、1996/07/25に当ページで報告したものと変わりはなく、公開時期を発表しただけのようですが、アドビ・モリサワ陣営の「拡張CIDフォント」計画を意識した行動かもしれないな…。

 


フォント関連用語集 1997/06/12

 フォントという単語がパソコンの普及と共に広まったが、それ以前は一般的に知られた単語ではなかった。
 本来は活字の同一書体・同サイズのセットをフォントと呼んでいたのだが、いまでは書体全般をフォントと呼ぶ風潮があり、若い世代などでは商品ロゴタイプや社名ロゴタイプまでも、フォントと呼んでいたりする。
 まあ、言葉の意味などは時間と共に変わっていくものだから目をつぶるが、話しをしたりメールを交換する時に共通の単語を使用しないと、意味が通じなくなってしまう。
 そこで、このページを毎週見に来てくれるフォント好きな人達にお薦めしたいのが「フォント関連用語集」です。

この小冊子は平成2年3月に日本規格協会から発行されたもので、A4サイズ54ページの手軽なものです。

●基本用語
●文字種に関する用語
●字体(漢字)に関する用語
●デザインに関する用語
●書体(和文)に関する用語
●書体(欧文)に関する用語
●編集組版に関する用語
●最近のデジタルフォントに関する用語
●ハードウェアに関する用語
●ソフトウェアに関する用語

 内容は、上記の10章で構成されており、特に目新しいことは書いていないのですが、フォント関連の用語を確認するのに、これ一冊で足りるので私は重宝しています。
 価格が表記されていなかったので日本規格協会に問い合わせたところ、現在は改訂され、

新フォント関連用語集(平成5年3月)
発行 日本規格協会 文字フォント開発・普及委員会
価格 4480円(88ページ)
電話 03-3583-8002

となっているそうです、ちょっと価格が高いかな…
 この原稿を書きながらインターネットのWWW上で同じような用語集を探したら、結構良いページが見つかりました。
 富士通アプリコ(株)フォント・デザインセンターのページ内にある「フォント関連用語集」です。内容・質・量ともに素晴らしく、前述の用語集と併用するのが良いと思います。

 


活版・写植・DTP… 1997/06/05

 写植機メーカーが手動写植機の製造を数年前に止めた。メーカー自らが写植の時代に幕を降ろしたのだ。
 これによって急に全ての写植機が消滅するわけでなく、たぶん現在の活版状況のように一部では重宝がられて存続すると思う。そして写植書体はメーカーが製造販売する電算システムへ移植されたり、一般の販売店でだれでも買えるデジタルフォントとして流通を始めた。
 その写植機メーカーが一般流通させたフォントがきっかけでパソコンで行うDTPが普及し、皮肉にも写植機メーカーが製造販売する高額な電算システムの販売にマイナスの影響を与えているようだ。

  現実には、デザイン意識の無い人がいい加減なDTP制作をしていたり、フォント関連の面倒くささで、まだ写植を越えた!とは素直に言えない。そのためDTPを否定する人達もいるのだが、活版から写植に切り替わる時代にも写植を素直に受け入れられない人達が多数いた。その彼らに、書体が弱々しいとか字間が開き過ぎてるとか言われていた写植システムだが、書体が徐々に増え、デザイナーと写植オペレータの工夫や写植機の機能アップなどで、密度のある組み版が可能になり、いつの間にか活版ではできない表現まで写植はできるようになったのだ。

 現在のDTPも同じこと。使い慣れた写研の書体が使えない、DTPではデザイナーと写植オペレータの両方の仕事を一人でやらなければならない、などと不満があるようだが、DTP表現の可能性に魅力を感じないのか? 能力のあるデザイナーが本気で取り組めばどんな方式でも良い仕事はできる筈だ。関連デザイナーの皆さんガンバリましょう!

 残念ながら写植全盛時代のレベルにはあと一歩のDTPだが、当初から日本の写植より優れていたことが一つある。
 それは欧文書体の品質だ。欧文書体は字種ごとに字幅が違う(たとえばIとW)。日本の写植機は全角文字の16分の1を単位としてしか文字幅が設定できなかったので、欧文書体をその幅に合わせてデザイン変更している。そのためオリジナルの欧文とは微妙に違うイメージの組版になっていた。当時は、本格的な欧文印刷物には仕方なく、IBMの欧文専用機や海外の欧文写植機などを利用していた。
 しかしDTPでの欧文書体(TimesとかHelveticaとかの)は通常 1000 分の1を単位として文字幅を設定してあるので、日本でもオリジナルに忠実な欧文書体を使用した本格的な欧文組み版が可能になっている。
 そんな本格的な欧文の優れたタイポグラフィの展覧会が催されています。

モリサワ・タイポグラフィ・スペース第5回企画展
N.Y.TDC BEST SELECTION展

 今年で43回目を数えるN.Y.TDC展には、毎年20数カ国から約2500〜4000点のエントリーがあり、その中からセレクトされた約200〜300点の作品が各国で巡回展示されています。
 本企画展では、日本での展示20周年を記念して過去10年間の応募作の中から厳選されたニューヨーク・タイプディレクターズ・クラブの本格的なタイポグラフィ作品をカテゴリー別に4回に分けて手にとって見ることができます。

第1期 6/2→ 6/20 ポスター1+カタログ+パンフレット
第2期 6/23→ 7/4 ポスター2+書籍
第3期 7/7→ 7/18 ポスター3+パッケージ+カレンダー+映像
第4期 7/22→ 8/8 ロゴタイプ+シンボルマーク+CI,VI計画

主催 日本タイポグラフィ協会
会場 モリサワ・タイポグラフィ・スペース
   〒162東京都新宿区下宮比町2-27モリサワビル1F
   TEL 03-3267-1233 FAX 03-3267-1536
会期 1997年6月2日(月)-8月8日(金)
休館 日曜、祝日(土曜日開催)
開館 午前10時〜午後6時 入場無料
交通 JR/地下鉄東西線・有楽町線・南北線
   『飯田橋』駅(地下鉄出口B1)より徒歩3分

 


アニト書体 1997/05/30

 アニトは1989年から成澤正信と共同で制作を続けている書体ですが、やっと4書体が(フォントワークスからMac用PSフォントとして)発売されました。
 今週はアニトが他の書体と少し違う部分を説明したいと思います。

●感嘆符(エクスクラメーション・マーク)の形
 デジタルフォントでは、区点番号0110の感嘆符は通常「!」のように垂直にデザインされていますが、アニト書体ではナナメにデザインしてあります。
 欧文書体では垂直にデザインされている感嘆符ですが、日本の活字や写植では両方用意されていてナナメのものも結構使用されていた筈です(今ではテキストがデジタル入稿されることが多いので垂直が優位ですが…)。
 そしてDTPの現場でもナナメ形が必要になると、アプリケーション上で苦労してナナメに変形したり、別売りの外字用フォントなどを使用して対処しているようです。
 アニト書体では通常(2バイト入力時)はナナメ形、欧文では(1バイト入力時)垂直形、と2種の感嘆符をデザインしてありますので両方を使い分けることができます。

●1バイト英数字類と2バイト英数字類のデザイン統一
 市場に出回っているMac用PSフォントの殆どは、約物類や英数字のデザインが2種あり、テキスト入力時に通常日本語入力(2バイト)と欧文プロポーション入力(1バイト)が正しく区別できていないとヒドイ字並びになるのですが、アニトなら問題になりません。

●和文と英数字の大きさ
 英数字を大きめにデザインしてありますので、行の並びがきれいに見えます。普通は漢字よりかなり小さくデザインされていますが、アニトでは漢字やかなと同じように見えることを優先しデザインしました。

●カドの内側をラウンド処理していない
 ふつう丸ゴシック書体は、画線の末端と角部分を丸くデザインしてありますが、アニトでは角の内側は丸くしていません。角ゴシックと同じデザインです。
 この処理によりアニトは、他の丸ゴシック系書体よりも少し硬く、そしてスッキリと感じられる書体になっています。

サンプル(ファミリー)とアニト制作の歩み
アニト-Lアニト-Mアニト-レリーフアニト-インライン

 


フォント字典 1997/05/23

 発行されたばかりの本の紹介です。帯には「デザイナー、編集者、DTP関係者必携の書。ひらがなとカタカナを書体毎にすべて収録、写植文字とデジタル文字が一冊におさめられた、日本ではじめての画期的な見本帳」と記されています。
 表紙カバーの折り返し部分にも文章があるのでこれも引用します。

●写植文字とデジタル文字を初めて一冊の本で紹介
写植メーカーであるモリサワ、リョービと、デジタル文字のタイプバンク、フォントワークスより、見出し用の全112書体を収録!
●各書体毎に、仮名文字をすべて収録
日本語の文字組みの70パーセントをしめるひらがなとカタカナの形をすべて目で見て確認。書体のイメージがはっきりとつかめます。
●利用者本位のわかりやすい配列
書体メーカー毎に並んだ従来の書体見本帳と違い、明朝体とゴシック体を、それぞれ基本形応用形の2種類にわけて配列。
●漢字と仮名文字のバランスがわかる縦組みと横組みの実例を用意

 という内容の字典です。編者の村上氏は、本文組みよりも見出し組みの仕事の機会が多いため、仮名文字の形がきちんと把握できない従来の見本帳に不満を感じ、この本を企画したそうです。
 文字好き人間やグラフィックデザイナーだけでなく、私のような書体デザイナーにとっても貴重な資料になる、このような本の出版には心から感謝したいと思います。
 
 少し残念なのは、写植メーカー・デジタルフォントメーカー各2社の書体しか掲載されていないこと。そして、見出し用のすべての書体が掲載されているわけでなく、編者の嗜好によって(たぶん)選択されたものだけが収録されていることです。
 私としては、商品化されているすべての書体を網羅した字典が欲しいのですが…ムズカシイのでしょうね。
 また、本文中に書体掲載を拒否したメーカーがあったと記してありますが、そんな考えのメーカーもあるんですね… ○○社からは掲載の許可が貰えませんでした、とはっきり表記してくれた方がスッキリすると思います。

 なお、村上氏は「かなとカナの形」シリーズで『明治・大正の木版活字』『大正・昭和の図案文字』『昭和・平成の写植文字』の3冊の発行準備をしているようです。

フォント字典
(写植からデジタルまで かなとカナの形)
編者 村上光延
発行 河出書房新社
価格 3300円

 


JIS X 0208改正1997 1997/05/15

 約1年前に掲載した「JIS X 0208の改正作業」が終了し、規格書が発行されています。
 期待して入手したのですが、今回の改正では文字の追加・削除・入れ替えや字形の変更は一切行っていないそうです。
 今回の改正は、規定の明確化とあいまいさを除去する作業だけを行っています。
 大雑把にいえば、過去の文字選定過程を調査し直し、あいまいな文字の出処を明らかにしたということです。
 たとえば鑁という見慣れない文字について

●梵語vamの音訳字として密教文献などに古くから用例がある。歴史的な僧名・寺院名として用例がある。NTT電話帳にも3件の用例がある。

と出処の解説が付きました(すべての文字に解説が付いているわけではありません、見慣れない文字だけ)。

 この作業はかなり念入りに行われてはいるのですが、どうしても出処も用例も確認不能の以下の文字があったようです。
挧暃椦槞蟐袮閠駲墸壥彁
 これら11個の文字は読み方さえも解からず、誰も必要としていない文字らしいのです。
 書体デザインの作業中に、どうしても思うようなデザインにならず、たった1文字のために何日も悩む時がありますが、それが上記のような誰も使わない文字だったりしたら……悲しいですね。
 これが現在皆さんが使用しているJIS第一・第二水準漢字の現状です。

 漢字オタクには結構喜ばれそうな厚さ25ミリのこの規格書、価格が14420円。私にはちょっと高く感じました。
 参考資料として、1文字ごとの主要フォントメーカーの字形差(明朝体)が解かる「各実装字形差一覧表」というものも収録されています。

JIS X 0208:1997(2バイト情報交換用符号化漢字集合)
14420円
財団法人 日本規格協会 03-3583-8002

●書店で注文することができます。

 


BSAって知ってますか? 1997/05/08

 BSAとは、コンピュータ・ソフトウェアの権利保護を目的とした米国の非営利団体の略称です。正式名称はBusiness Software Alliance、日本では1992年から活動を開始しています。
 簡単にいえばソフトウェアの違法使用を防ぎ、業界が正しく発展することを目指しているわけです。
 日本で使われているソフトウェアの55%は違法コピーだそうです。そのあまりにヒドイ状況を打破するためにBSAは「違法コピー一掃キャンペーン」を開始しました。
 情報提供によって、その違法行為が解決した場合は謝礼金3万円、情報提供者が法廷で証言を行った場合は謝礼金30万円が支払われます。
 詳しく知りたい方はこちらのBSA日本のページへ(臨時収入になるかも?)。

 違法コピーに関しては私のデザインした書体も、デジタルフォント化しソフトウエアとして販売されているので他人事ではありません。正式に購入されたフォント製品の数で私の収入が決まるのですから…。

 業界は違いますが、自分の好きなアーティストの音楽をカセットテープとかにダビングして、この人の曲イイよ!なんて人にプレゼントしたりする人がいますが、それでいいのでしょうか?
 確かにその曲がもう一人の人間に聞かれはしましたが、その楽曲を作りだした人達には何も還元されません。販売したわけではないから構わないだろうと思っているようですが、これが一番メイワクなのです。
 レコード会社は何の収入にもなりませんよね。売れるはずのCD1枚分損したわけです。売り上げの少ないアーティストはそのうち新曲を出せなくなったり所属事務所をクビになりますね。本当にファンならそんな行為はやめたほうがいいんじゃないでしょうか? 
 好きなアーティストのCDをきちんと購入して彼らの収入を増やし、これからも創作活動を続けて良い楽曲を発表して欲しいと思わないのでしょうか?
 いまどきCD1枚買えないほど貧乏な人は、いないと思うのだけど…

 簡単にできるからといって安易に違法コピーを続けている人は、モノを創るという行為を尊重していないのでしょうね。

 


OpenType+ …… 1997/05/01

 1996/09/19に掲載したOpenTypeの追加情報です…。
 先週のSeybold Seminars New York 97でMicrosoftとAdobeが「OpenType+」の仕様を発表した。プラスマークが加わって何が進化したのか私には判らないのだが。

 最初にリリースされるOpenType fontは、Hermann Zapf氏デザインの、MacintoshユーザにはおなじみであるPalatino書体になるらしい('98年初頭予定)。
 OpenTypeは、自由にライセンスが可能で、フォント管理の合理化を図れ、よりリッチな書式化を実現でき、統合化されたインターネットパブリッシング環境を含んでいる。ということなのだが日本語環境では具体的にどのような仕様になっていくのだろう? 

 日本のマイクロソフトとアドビはいままでのところ、特に何も発表していないと思うが、本当に日本語環境でTrueType(Mac用とWin用)とType 1(PS)を統合化できるのか? ユーザがこれ以上混乱することが無いように上手に対応して欲しい。
 日本の両社の能力に期待しています!

 


かなの字形「は」について 1997/04/24

 先週に続いて字形です(ネタ切れか?)。
 今回は平仮名の「は」ですが、1画目の縦棒の変化を追って見ようと思います。
 字源は「波」ですね。波のさんずい部分が現在の縦棒になったわけですが、初期の印刷用書体では、まだこの部分が独立しておらず、右上へ繋がった形が見られます。
 最近の明朝体では、その脈絡が下から右上方向へのハネとして残されていますが、殆どが独立した縦棒としてデザインされています。
 明朝体での変化はそこで止っているようですが、ゴシック体では30年ほど前に大きな変化がありました。かな書体タイポスの出現です。

 毛筆の名残を捨てたモダンなデザインのタイポス書体には、ハネがありませんでした。これ以前にもゴシック系の書体で左縦棒にハネの無い「は」は一部存在しましたが、タイポスのブームのおかげで多くの人の目に馴れ親しんでいきました。
 このハネ無し縦棒のデザインは、その後のヒット書体「ナール」「ゴナ」などにも継承され、現在モダンなゴシック書体のデザインは、殆どがこのスタイルになっています。私のキャピーやわんぱくでも当然この形になっているのですが、最近モダンなゴシック書体なのにハネがついているデザインの「は」を発見しました

 それはロダンという書体です。ポストスクリプト・フォントを専門に製造しているフォントワークスという会社のゴシック書体なのですが、漢字をみると毛筆の名残はあまり感じられない現代的なデザインなのですが、かなの「は・ほ」などの縦棒にハネがついています。
 この書体は発売されてから何度か改訂され現在のデザインになりましたが、最初からハネがついていた記憶があります(ハネの形が違いますが)。
 この書体のかな文字には他にも古い骨格を感じさせる文字がいくつかあり、写研のゴナやモリサワの新ゴとはちょっと違う雰囲気を持った、用途の広い面白いゴシック書体に仕上がっています。

 


カナの字形「ヲ」について 1997/04/17

 久しぶりに「カナの字形」です。今回は「ヲ」なのですが、カタカナ言葉がいくら増えたとしても、この文字はあまり使われませんね。
 この文字の字源は「乎」です。漢字の冠や篇の略書から成形されたカタカナですから、この文字も上からの3画(ノヽノ)が(ニノ)になり現在の(ヲ)という形で定着したようです。
 私はこの文字を筆記するとき、フを書いてから横棒を足していますが、字源に基づいた書き順ではありませんね…。

 それでは書体デザインの世界ではどうなっているのでしょう? さすがに(ノヽノ)という書き順を連想させるものは現在見当たりません。しかし(ニノ)という書き順のなごりはまだ残っているようです。
 写植や活字などの毛筆系か明朝系の古い書体の一部に、この字形が存在します。しかし通常パソコン上で使っているフォントで、この(ニノ)字形を見ることは難しいかもしれません。あなたの所有しているフォントをあとで調べて見てください。
 明朝体の後に出現したゴシック書体では、殆どこの(ニノ)字形は見られませんが、例外として、古い活字の形をヒントにデザインされた私の「墨東」や味岡伸太郎氏のかな書体などでは、近年制作されたにも拘らず(ニノ)字形が見られます。

 このように、文字の形は時代と共に少しづつ変化していきますので、どちらが本当だとか正しいとか極め付けるられものではありません。

 


マシュー・カーターとタイプゲーム 1997/04/10

 欧文書体デザイナーとして著名なマシュー・カーター氏が、ウォーカー・アートセンターのCI用として「WALKER」という少し変わった書体を制作した。

 この書体は、WALKER、WALKER-UNDER、WALKER-OVER、WALKER-BOTH の基本4書体とそれらのITALIC書体でファミリー構成されているが、最大の特徴はユーザが自由に字形を変化させ、新しい書体デザインに挑戦できることだ。
 書体の作者が、サンセリフの大文字と、自由に取付け可能なセリフなどをデジタルフォントで提供し、使用する側の人間が、それらを組み合わせてタイプし最終的なタイプデザインを決定するのだ。

 この新しい書体「WALKER」のデザインコンセプトと構成パーツの紹介、「WALKER」を実際に使った作例などがモリサワのギャラリーで4月9日から展示されています。
 会場内には Macintosh が用意され、「WALKER FONT」の面白さが体験できますので、興味のある方はぜひどうぞ。
 なぜか私も、この書体を使った作品を出品しています(あまり期待しないで…)。

ウォーカー・アートセンターの新しいCIタイプ
マシュー・カーターとタイプゲーム
●マシュー・カーター
1981年にビットストリーム社を設立した氏のデザインした主な書体は、スネル・ラウンドハンド、ベル・センテニアル、チャーター、ギャリアード、マンティニア、エレファント、ソフィアと多岐にわたる。 現在は Carter & Cone Type Inc. というたった二人だけのタイプデザイン会社をつくり活動している。
出品=佐藤豊 平野甲賀 鈴木守 杉本浩 新島実

4月10日より5月23日(日・祝日は休館)
AM 10:00 〜 PM 6:00
モリサワ・タイポグラフィ・スペース
新宿区下宮比町2-27モリサワビル1F
TEL. 03-3267-1233
開館時間と休館日が以前と変わり、土曜日も開いています。

 


幻の平成ゴシック書体 1997/04/03

 ふだん何げなく使われている平成書体だが、この書体はその名称が示す様に元号が平成になってから開発されたかなり新しい書体だ。
 1988年、出来たばかりの「文字フォント開発普及センター」が新書体デザインの公募を告知し、翌1989年にコンペティションが実施された。
 募集書体は明朝体とゴシック体。新規にデザインされたオリジナルデザインに限り、すでに商品化されている書体は応募出来ない。
 私は当時つきあいのあったF社から「このコンペに参加したいので協力して…」と言われ、ゴシック書体をデザインした。

 ふだん出品している、サンプルデザインを提出するだけのコンテストなどと違い、制作スタッフの人数とかデジタルデータのフォーマットや開発環境、実制作のスケジュールだとかも審査の対象になるし、制作期間や予算などもきっちり決められているシビアなコンペだった。

 参加するには文章組のサンプルなども色々作らなければならず、その頃は現在のようなDTPソフトや高品位なプリンタも販売されていなかったので、写植文字盤を特注して写植機で文字を組むことにしたのだが、デザインに関係ない書類もたくさん用意しなければならなかったり、写植文字盤の外注制作にかかる時間を計算すると、実質の書体デザインには充分な時間がなかった…そこで私が書体デザインの仕様書を作り、原字の制作は仕事の早い友人のK氏に依頼した。
 私が制作したそのゴシック書体に添付した当時のデザイン説明には、以下のように記してある(すでに明朝体のコンペが2ヶ月先行して進んでいた)。

 見出しにも本文にも使用できるゴシック書体、そして先に決定した明朝体との調和、という難しい制約ではあるが、私達はゴシック書体の本来の目的どおりに、同時に使用する同サイズの明朝体よりは、黒く・強く感じられるようにこの書体の太さを決定した。
 また、デジタルフォントとして最初の標準基本書体ということを踏まえ、あえて目新しいデザインをせずに、できるだけクセを無くし、誰でもが、どんな文章にも安心して使える、現代的な骨格を持った書体にデザインした。

 審査は、全ての応募書体資料を見たあと、数十の開発会員会社の担当者により、投票が行われ決定する。
 明朝体の応募数は6点、ゴシック体は5点だったが、結果は明朝体はリョービイマジクスが1位。ゴシック体は私達が一次選考では1位だったが、二次選考では日本タイプライターが1位になり、このコンペは終了した。
 参考として私がデザインしたゴシック書体をここに公開します。この他にも明朝・ゴシック計8点の書体が幻のまま桜の花と共に散っていった1989年の春でした。

 


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